「まったく…」
見渡す限りの赤い大地。果てまで続く青い空。それらをどこまでも照らす太陽は夏の気配を早くも漂わせ、輝いている。
そんな強い日差しが作り出す大地のコントラストの影の方に三人は腰を下ろしていた。
「ふぅ〜ちょっと一休み!」
その中の一人、燃えるような赤毛を後ろで1つに束ねたカウガールが手頃な岩に体重を預ける。すとんと座ると同時に、背負った日本刀の鞘が当る。普通に考えればカウガールらしくない装備だが、この日本刀こそ彼女の武器「レッド・サン」である。
「今日は結構進んだね、ジェミニ。」
溌剌と笑うカウガール――ジェミニの隣りの一回り小さな石に腰掛けながら赤茶の髪を2つに束ねた少女が笑いかける。
「そうだね、フワちゃん。この調子なら今夜には次の街に行っておいしいご飯が食べられそうだ!」
フワちゃんと呼ばれた少女こと、フワニータはジェミニに「そうだね。」と相槌を打ち手を合わせて笑い合う。
二人の脳裏には町のおいしいディナーがズラリと並んでいるに違いない。
「…道に迷わなければな。」
そんな二人の向かいに座り込んで愛銃の簡易整備点検をしていた青年がボソッと言った言葉に、ジェミニは眉を吊り上げて反論する。
「こら、ブレッド!そんなこと言ってホントに迷ったらどうするんだ!!」
ブレッドと呼ばれた褐色の肌をしたカウボーイは点検を終えた相棒とも言える銃を慣れた動作でホルスターに戻す。
「そう言えばジェミニ…お前銃は使わんのか?」
ジェミニの反論を無視し、次の話題を振ったブレッドはちらりとジェミニの腰に装填されている黒光りする物を見る。それはブレッドが見る限りとても使い込まれているとは思えなかった。
「ああ、うん。ボク、銃はあんまり得意じゃないんだ。」
あはは…と乾いた笑いを見せて目を泳がせるところを見ると、それは真実なのだろう。
「ブレッドの銃は、かなり使い込まれてるよね。」
フワニータも生まれた話題に参加する。
「やっぱり、ジェミニの刀みたいに誰かに教わったの?それとも独学?」
フワニータの言葉に、ブレッドは銃を一撫ですると、ふぅ、と空を見上げた。
あの頃は、こんな青い空見上げたことはなかったな―――
「昔、ちょっといろいろやってたときがあってな…その時に教えてもらったんだ。
あの人、今はどこでどうしてるんだろうなぁ…」
「え?何なに?!どんな人?男?女?カッコイイ?
ボクの師匠はカッコよかったよ〜」
「………そうだな、俺がまだひよっこだった時にいろいろ教えてくれたよ―――」
『う、うわぁっ!』
『片手で撃つな。銃を持って間もないんだったら両手で撃て。』
『当たってくれ!』
『祈るくらいならしっかりと脇をしめて照準を定めろ。』
『や…やった…!』
『ぬか喜びは自分のためにならないわよ。』
「……ちょっとキツかったけど美人だったし一言言うだけでいつも先に行ってたけど、いい先生だったよ。」
美しき思い出に浸って何度も頷くブレッドだったが、聞き手の二人はなんともいえない顔で互いを見た。
「ねぇ、ジェミニ…その女の人って教えたって思ってるかな?」
「ボクは……思ってないと思うな…」
おそらく、当時のブレッドがあまりにも未熟だったのが故に見るに見かねて一言言ってしまったということが真相だろう。
「ん?どうしたんだ二人とも。」
「う、ううん!なんでもない!そ、そろそろ行こうかジェミニ。」
「そ、そうだねフワちゃん!ラリー!おいで、出発するよ!」
ジェミニはフワニータに何度も頷き、立ち上がると少し離れた所にいた愛馬を呼ぶ。
ジェミニの呼び声にすぐに白馬――ラリーがジェミニのもとに駆け寄ってくる。ひらりとラリーにまたがると、フワニータの手を取って自分の前に乗せる。
「さっ次の町に向けて出発〜〜!」
「あ!お、おいちょっと待てよ!」
ラリーと同じところに止めていた三輪蒸気バイクのエンジンをかけ、ブレッドも後を追う。
「町はそっちじゃなくて、あっちの方角だろ!」
赤い大地を疾走する白い馬と鉄の馬がそれぞれに土埃を上げる。目指す町はもうすぐなのか、まだ遠いのか。
それは燦然と輝く太陽にもわからなかった。
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