「星の乙女」
春の夜空。西に見えるその星は
「レニ、いるの?」
下方から聞こえた声に見上げていた目線を向けると、パジャマ姿のアイリスが身を乗り出していた。
「アイリス…どうかしたの?」
「ん、なんとなくレニがいる気がしたの。ねぇ、アイリスもそっちに行ってもいい?」
「うん。足元に気をつけてね。」
返事を聞いたアイリスはにっこりと笑って自分のがいる屋根の上へと上がってくる。
隣に腰掛け、自分と同じように夜空を見上げると、その広がりに声を上げた。
「わぁ〜…!今日は星がよく見えるんだね。」
「うん。だからボクも見たくなって、ここに来たんだ。」
「そっか。ねぇレニ、またお星さまのお話聞かせて?」
「いいよ。それじゃあ……」
アイリスの素直なおねだりにレニは一つ頷いて、すっと夜空に指先を伸ばす。
「…あそこに三つ星が並んでるの、わかる?」
なるべく同じ目線になるように顔を寄せて説明を始めると、アイリスはこくんと頷く。
「そこから四方に目を向けると、それぞれに強く輝く星があるでしょ。
それを線で繋げる…これが、オリオン座。その右側で大きく光っているのが牡牛座の一等星。」
「へぇ〜…やっぱりレニはお星さまが大好きなんだね!
…ねぇレニ、あのぼんやりとたくさん光ってる星は?」
アイリスが示した星は牡牛座の一等星よりもさらに右にある星々だった。
その星に関する情報を頭の中で浚ったレニは連鎖で思い出した出来事にピクリと眉を動かす。
「…あれは、プレアデス星団。いくつもの星が寄り添いあってるんだ。日本名は……昴。」
「すばる…なんだかカッコいい名前だね。」
「………………」
「?…レニ、どうかしたの?」
見上げたまま黙ってしまったレニの横顔を覗き込むように首を傾げると、レニはそれに引かれる様に視線を合わせて口を開いた。
「うん…ボクに星の話をしてくれた人と同じ名前だったから。少し、思い出したんだ。」
それはもう十年近く昔の話。夜空を見上げて方角を確認してたときに話してくれた星々の逸話。あの当時、任務の話以外で昴と会話したのはそれだけだった記憶がある。
「そっか…じゃあ、その昴って人も今もどこかで星を見てるかもしれないね!」
「…そうだね。今は紐育にいるらしいんだ。」
「えっそれって…星組にいるってこと?」
「うん…ボクも詳しくは知らないけど、ラチェットが呼んだらしい。」
欧州に残り、活動していたらしい昴はさらに完璧さを増したという。
一方、自分はあの頃は知らなかった、解らなかった想いや気持ちをたくさん学んだ。
完璧だと思っていた自分は欠片のような存在だったが、信頼できる仲間と共に歩む素晴らしさの中に、今はいる。
今、昴と話したらなにを思うだろう?
「レニは、昴のこと好き?」
「………よくわからない。星組が解散してからは一度も会ってないし…」
「じゃあ、今度会った時はいっぱいお話できるといいね。」
それで、一緒に笑えたらいいね。
屈託無く笑うアイリスに、自然とこぼれた笑みが応える。
「…うん、そうだね。ラチェットとも話が出来たんだ。昴とも…話せるといいな。」
再び夜空に目を向けると、変わらず輝く星が目に映る。
満天の星とはいかないけれど、強く確かに輝いている。
輝く星座に映す心はかつての孤独といつかの冷たさ
そして、ここより続く希望。
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