「…はい、できたよ。」
「ありがとう、新次郎お兄ちゃん!」
新聞紙で作った兜を被せてあげると、にっこりと笑って友達のところへ駆けていく姿にぼくもなんだか嬉しくなる。
「なんだか、ちょっと前のあなたと一郎さんみたいね。」
振り返ると、お盆の上にお茶と柏餅を乗せた母さんがくすくすと笑っていた。
「お茶と柏餅、ここに置いておくわね。」
「ありがとう、母さん。」
縁側に座っているぼくの横にお盆を置くと、母さんはすぐに台所の方へと戻っていった。
「そう言えば、あの兜の折り方も一郎叔父に教えてもらったんだっけ…」
柏餅を食べながらふと、数年前の出来事を思い出す。
一郎叔父はたくさん遊んでくれて、たくさのことを教えてくれた。江田島の海軍士官学校に進んで、卒業してすぐに任務に着いてしまったらしく、ずっと会えなかったけど
(一郎叔父の海軍姿、かっこ良かったなぁ……)
2ヶ月くらい前に、今度は南米演習に行くからと、里帰りしたときに見た真っ白な軍服姿はとても凛々しくて憧れた。
そっと、自分の頭に触れる。
あの時、一郎叔父はぼくに海軍の士官軍帽を被せてくれた。それが嬉しくて敬礼の真似をしたら、一郎叔父は似合うと笑ってくれた。
「……ぼくも、あんな風になりたいな。」
ずっと、朧気に思っていたけど、あの時決めた。ぼくも江田島の士官学校に進む。
それで、出来ることなら一郎叔父の手伝いがしたい。
「ぼくは一郎叔父みたいなでっかい男になるんだ!」
……そう決意して、もう五年が過ぎようとしている。
「……で、最後に中に織り込めば完成だよ。」
「おお〜!すごいな、しんじろー!」
「へぇ〜ホントに新聞紙が兜になるんだね!」
「ふぅん…器用なもんだね。」
ふと、懐かしくなってサジータさんが読み終わり、リカもパズルを解き終わった新聞紙を貰い兜を折ると昴さん以外のみんなは驚いてくれた。
「大河、ちょっと被ってみろ。」
「え?…わひゃあっ」
昴さんは日本人だから折り紙はそんなに珍しくないんだろうな、と思っていたら素早く兜を取ってぼくの頭に被せた。
「大河さん、よく似合ってますよ。」
それを見たダイアナさんが少しも悪びれなく笑顔でいうもんだから、ジェミニもサジータさんも昴さんもリカまで「似合う」と言ってきた。
(うぅ……ぼく、もう子供じゃないんだけどなぁ…)
なんとなくむなしい気持ちになりかけたけど
「……そんなに似合う?」
「うん、そういうのも新次郎らしくていいと思うよ!」
それならそれでもいいかな、とも思えるようになった。
ぼくの目標はでっかい男になる。それは変わらないけど、一郎叔父のように、という部分はそんなに思わなくなっていた。
この紐育で、ぼくはぼくなりに精一杯がんばろう。
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