下を見ればクリスマスシーズンでいつにも増して華やかな紐育の街並み。
上を見れば雲一つ無い空に星が瞬いている。今日は特別よく見える気がする。
これなら…とジェミニはシアターの屋上で人知れず笑顔を浮かべた。

「ジェミニ、何してるの?」

ウキウキした気分を保ったまま振り返ると、つい先ほど掃除を終えた大河が手に箒を持ったまま立っていた。

「あ、新次郎!あのね、昴さんから聞いたんだけど、今日流れ星が見えるんだって!」
「ホント!?」
「うん!」

ぎゅっと箒を握る手に力をこめて目を輝かせた大河に、ジェミニもさらに晴れやかな笑みで頷いた。

「ぼくも一緒に待っててもいいかな。」
「もちろんだよ!」
「じゃあ、これ片付けてくるからちょっと待ってて。すぐに戻ってくるから。」

ジェミニが頷くのを待って、大河はエレベーターへと駆けていく。
その後ろ姿を見ながら思いがけずデートになったことに、無意識のうちに小さくガッツポーズをとった。



「おまたせ!」

少し遅いな、と思いつつも再び空を見上げていたジェミニの耳元に届いた声に顔を動かすと、箒の代わりに大きめの毛布と暖かい飲み物を詰めた水筒を抱えた大河が隣りに腰掛けるところだった。

「うわぁ〜!新次郎、気が利くね〜!」
「えへへへ……今日は寒くなるって言ってたからね。はい、ジェミニの分。」
「ありがとう、新次郎。」

照れ笑いと共に差し出された紅茶に頬が熱くなる。
一枚の毛布に二人でくるまると、寒さも吹っ飛びそうだとジェミニが堪えきれず笑みを零すと同時に、視界の隅に光りが走った。

「あ!新次郎、今の見た!?」

思わず大河の方を向くと、鼻先が触れる距離に顔があって思わず心臓が跳ねる。だが、大河はジェミニに気づかずに星空を見上げ続けている。

「うん!あ、ほらジェミニまた!」

声につられて見た空は流星群と呼ぶに相応しい天体ショーが繰り広げられていた。
しばし無言で、二人は大空を翔る光に見とれた。

「そう言えば、新次郎は願い事はしたの?」

最盛期が収まったころに、思い出したようにジェミニが訊ねると大河は星空から目を離して頷いた。

「うん、したよ。」
「どんなの?」
「……内緒。」

ちらっと目線をずらして呟いた大河に、む。とジェミニのスイッチが入った。

「えー!教えてよ〜」
「そ、そういうジェミニは?」

食い下がろと肩を揺するが、逆に質問を返されてしまった。
ぱっと手を離して先ほどの大河と鏡のような態度を取る。

「ボ、ボクは……ボクも内緒!だからおあいこ!ね?」

気恥ずかしさから声をあげるジェミニは知らない。
それに納得してしまった大河も知らない。
さり気なく繋がれた手と同じように、二人の願い事が同じだということを。


クリスマス、星夜の願い事は「あなたと幸せでありますように」



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