クリスマスの過ごし方は2つある。
一つは気の合う仲間と楽しく過ごすクリスマス。
もう一つは―――
「サジータさん、お待たせしました!」
息を弾ませて駆けてきた大河に、先に待ち合わせ場所であるシアターの玄関に居たサジータはちらりと腕時計を確認してから言葉を返した。
「いや、時間どおりだよ。急に呼び出して悪いね。」
クリスマス目前の休日。
キャメラトロンにサジータから連絡があったのは空が茜色に染まる頃だった。
だが、サジータに会いたかった大河は2つ返事で家を飛び出していた。
「いえ、大丈夫です。」
そんな本心が顔から滲み出ているのか、嬉しそうな笑みで首を動かす大河にサジータの頬は火照りそうになる。
「じゃあ行こうか。あんたに見せたいものがあるんだ。」
この真っ直ぐな坊やに出会えたことに改めて感謝したくなるのはこれから向かう場所が場所だからだろうか。
二人は並んでサジータにとってより馴染み深い場所、ハーレムへと向かった。
ジャズバー、彼女の事務所を通り過ぎたところで、サジータは足を止めた。
「…教会ですか?」
目的地を確認する大河にサジータはああ、と短く頷いて教会の重い扉に手をつく。
「今日はいつもとちょっと違うのさ。」
ゆっくりと扉を開けて、中へ進むサジータの後を追って足を踏み入れた大河は思わず歓声を上げた。
「うわぁ……!」
綺麗に配置された無数のキャンドルがオレンジ色の暖かい灯りで礼拝堂を照らしている。
日の光が入らない夜の教会は薄暗くどこかひんやりとしているが、今日はそんな雰囲気など微塵も無い。
「すごいです、サジータさん!」
「気に入ったかい?」
「はい!…なんだかとても暖かい気持ちになります。」
電灯やネオンとはまったく違う、ゆらゆらと揺れる光。
この灯火の前では、素直になれそうな気がした。
「なぁ、新次郎…ありがとな。」
「えっ?」
隣りから降ってきた言葉に大河はキャンドルから目を離してサジータを見上げた。
「そんなに驚くなよ。ただ、言いたくなっただけさ。」
そう続けた彼女の表情はいつもより穏やかで
「そ、それならぼくも……」
今なら、言えそうな気がする。この暖かな光に包まれた場所なら。
「ん?」
きゅっと手を握られたサジータの心臓が瞬きと同時に早まる。大河の真剣な瞳から目が離せない。
「サジータさん……これからも、一緒にいさせてくださいね。」
最後にふわりと笑った大河の予想だにしなかった告白にサジータは一瞬言葉を奪われたが、すぐにこれまでで一番優しい笑顔で返した。
「…まったく、これだから坊やは。あんたはアタシがいないとダメなんだから、置いてくわけないだろ。一緒だよ、ずっとな…新次郎。」
クリスマスの過ごし方は2つある。
一つは気のあう仲間と楽しく過ごすクリスマス。
もう一つは―――愛する人と過ごす幸せなクリスマス。
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