街中に音楽が溢れる街、紐育。
特に華やかな雰囲気に包まれるクリスマスシーズンは騒音も楽しいミュージックに聞こえる。
「ひっいらぎ飾ろ♪ファララララ〜ラララ、ラ!」
そんな街の音に合わせてリカリッタは相棒のノコを肩に乗せて公園の道をスキップで進む。
「キャロルをうったおう♪ファララララ、ラララ〜!」
「……リカ?」
「お、しんじろー!」
大好きな声に足を止めると、首を軽く傾げている大河がそこにいた。
「しんじろー、何してるんだ?」
「いや、ちょっと散歩を…リカはなにか嬉しいことがあったの?」
いつも元気な彼女だが、今日は殊更に見えて訊ねると、リカリッタは両手を腰に当てて胸を張った。
「あのな、リカな、クリスマスの歌をたくさん覚えたんだぞ!」
聞けば、ここ数日リカリッタはサジータやダイアナたちにクリスマスソングを立て続けに教わり、それが楽しくてこうして歌ってみていたそうだ。
「そうだったのかぁ…すごいね、リカ。」
いつもながら、リカリッタの旺盛な好奇心に感心する。
普段、シアターの公演でもリカリッタはその小さな体からとは思えないほどの声量で伸びやかに歌う。
そんなリカリッタを時に舞台袖から、時に客席の最後尾から見るのが大河は好きだった。
愛おしさから頭を撫でると、リカリッタはにっこりと笑みを深めて口を開く。
「いししししし〜!リカ、歌うの大好き!歌うと楽しくなる!」
「そうだね、歌うと気分が良いよね。」
「じゃあ、しんじろーも一緒に歌うぞ!」
「えっ!?」
思わず撫でていた手を離して身を屈めて顔の高さを近づけると、リカリッタの目は期待に満ちているのがよくわかった。
「でも、ぼく…さっきリカが歌ってた曲知らないよ。」
申し訳なさそうに眉を下げる大河だが、リカリッタはふるふると首を振った。
「じゃあ、しんじろーが知ってる曲を歌う!しんじろーが決めろ!」
「えっ…うーん、急に言われると……うーん…」
腕を組んで必死に記憶を手繰る。
紐育に来るまでクリスマスというものにあまり馴染みが無かったため、かろうじて歌えるものがあるならば最近耳にしたメロディーだけだろう。
そんな大河の様子をリカリッタはじっと待ちながら、時々耳にする彼の歌声を思い浮かべる。
それは屋上のサロンにいるときだったり、掃除の後片付けをしているときだったりと、ふとした何気ない時間の中だけだったがリカリッタは大河の優しい歌声が大好きだった。
「じゃあ、この曲はリカ知ってる?」
だからきっと、一緒に歌えたらとてもとても楽しいだろう。
大河が口ずさんだメロディーに、リカリッタは大きく頷いた。
「おう!じゃあ、せーので歌うぞ。」
「うん、わかった。」
「いししししし〜!…せーのっ!」
公園の片隅で紡がれる朗らかな歌。
それに、共に歌う人に幸せが訪れますようにと願いをこめて。
歌声が響く。
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