きっと、あの曲を途中までしか聞かなかったから、こんな夢を見たのだろう。
そう結論を出して、ダイアナは心細さを少しでも軽くしようと己の両手を胸の前で握りあわせた。
「ダイアナさん、大河です。」
クリスマス目前の休日。
昼下がりのお茶を楽しむ準備をしているところに響いたドアを叩く音にダイアナの心臓が高鳴る。
「はい、今開けますね。」
返事をしながらドアへ駆け寄り大切な人を迎えると、暖かい笑顔がそこにあった。
「いらっしゃいませ大河さん。今、お茶を淹れますね。」
「あ、ぼく今日はお茶菓子になりそうなものを持ってきたんですよ。」
ダイアナに勧められた席に座りながら大河はポケットからリボンで可愛らしく包まれた菓子を取り出した。
「まぁ…!」
手のひらの上でリボンを解いて、中身をダイアナに見せると彼女は歓声を上げた。
「ダイアナさん、金平糖は好きですか?」
「ええ。」
ダイアナが笑顔で頷いたのに大河は良かった、と微笑んで色とりどりの金平糖をテーブルに置く。
ふと、ダイアナを見ると彼女はくすくすと小さく笑っていた。
「どうかしたんですか?」
「いえ…今朝の夢を思い出して。」
疑問に思った大河が訊ねるとダイアナは少し恥ずかしそうに口を開いた。
昨夜、チャイコフスキー作曲の「クルミ割り人形」を聞いていたダイアナはいつの間にか寝入ってしまい、夢を見た。
その夢は物語そのもので、金平糖の精になった自分はクルミ割り人形の姿をした大河と一時を過ごしていた。
「ですが……途中で曲が途切れて、最後は大河さんともはぐれて…目覚めたとき、とても心細かったんです。」
ただの夢なのに涙が頬をつたうほどに。
話しているうちに閉じ込めたはずの今朝の感覚が蘇ってきたダイアナは、同じように己の両手を胸の前で握りあわせて無理に笑みを向けた。
だが、その様子に不安が透けて見えた大河は視線をダイアナの瞳に合わせたまま彼女の両手を自分のそれでそっと包む。
ゆっくりと瞬きをしたダイアナに大河は優しく微笑んだ。
「ダイアナさん…もう、大丈夫ですよ。ぼくはここにいますから。」
「大河さん…」
「あなたのそばに、いますから。いつでも……一緒です。」
少し頬を染めた大河の真っ直ぐで暖かい告白に、ダイアナは自分の不安が霧散していくのを感じた。
夢はどんなものでも、必ず覚める。
でも、この手のぬくもりは夢ではない。そして、彼は約束してくれた。
「……はい。大河さん…あなたと二人で……」
青い瞳が幸せそうに輝くと、黒の瞳は魅入られるように距離を縮める。
まるで夢のような素敵な現実に、ダイアナはそっと瞳を閉じた。
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