この音はね、幸せを運ぶんですよ。
そう店員が勧めたからと言うわけではないが、品も良かったし、彼には幸せという言葉が似合うと思った。



「新次郎、手を出せ。」
「はい?」

クリスマス公演を明日に控えた休日。
いつかと同じように昴の部屋で過ごしていた大河は唐突の言葉に疑問を感じつつも言われた通りに右手を昴の前に広げると、そっと昴の手が添えられた。

「メリークリスマス、新次郎。僕からのプレゼントだ。」

続いてとん、と手のひらの上にリボンのついた箱を乗せると、大河は目を大きくして二回瞬いた後、これ以上無いくらい顔を綻ばせた。

「うわぁ…!どうもありがとうございます!開けてみてもいいですか?」
「どうぞ。」

昴が頷くのを待って喜々として包みを開けると、中身は銀色の小さなボールがついたキーホルダーだった。
ボールには細かな星の彫刻が施されていて、手に持つと涼やかな音が揺れた。

「これ、鈴なんですか?」
「ああ。普通の鈴は空洞部分の隙間から音がこぼれるが、これは中の金属同士が反響するものなんだ。だから音も少し違うだろう。」
「へぇ〜…綺麗な音ですね。」

疑問に的確に答えてもらった大河は耳元で何度も軽く揺らして音を楽しむ。
そんな大河を、昴は興味深く見つめたまま口を開いた。

「これなら、すぐに君だとわかるだろう。」
「…ぼく、迷子になったりしませんよ。」

鈴を耳元から離し、まだ幼い子供のように頬を膨らませて睨む様に、昴は虚を突かれ思わず吹き出した。

「はははっ違うよ、そういう意味じゃない…けど、たしかに君はまだまだ危なっかしいところがあるから鈴にして正解だったかな。」
「もう、昴さん!からかわないでください。」

反論しつつも、昴の素直な笑い声が聞けて大河は少し嬉しい気分だった。

「いや、すまなかったね。そうだな…お詫びに君の願いを一つ叶えてあげるよ。言ってごらん。」

昴からのプレゼントに笑い声。
それだけでも十分に素敵な休日なのに、次いだ言葉に心臓が跳ねた。

「えっ……願い、事…」

思わず繰り返すと、昴は優雅に頷いた。

「せっかくのクリスマスだ。遠慮することは無い。」

昴は扇子を口元に当てて何時もと変わらぬ涼しい笑みを浮かべて何やら口ごもる大河の反応を待つ。

「あ、あの……じゃあ、目をつぶってもらえますか?あ!薄目は無しですよ。」

ようやく出てきた言葉に、昴は笑みを押さえて素直に従った。
暗闇でも、目の前の相手の動きは気配でわかる。
大河は、ゆっくりと近づいてくる。ここまでは予測通りだ。

「……?」

だが、次にエスコートされるように左手を握られた。そして、薬指に感じる貴金属特有の冷たさ。
予想外の動きに昴が目を開けると、顔を真っ赤にした大河と至近距離で目が合った。

「プレゼントです……それと…ぼくの、願い事は……傍にいてほしい…です。昴さんと手を繋げる距離にいたいです。」
「………」

それは願い事とは少し違うだろう、とか。まさか今日プロポーズされるとは思わなかった、とか昴の頭には様々な返事が浮かんだが、どれも言葉にならなかった。代わりに響いたのはあの店員の言葉だった。

「……新次郎、僕でいいのかい?」
「昴さんでなきゃ、ダメなんです。」

ああ、本当だ。
鈴の音は幸せを運んでくる。



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