そのカードが届けられたのは数日前のことだ。
ラチェットからわざわざ郵便で届けられたそのカードにはたった一言「クリスマスの夜、宿り木の下で待ってます。」と書かれていた。
「うーん…宿り木に何か意味があるのかなぁ?」
こういうことに今ひとつ疎い大河はラチェットの意図が掴めず首を捻っていた。
「………失敗、したかしら?」
カードの内容を実践するためにこっそりとセントラルパークへとやって来たラチェットはファーのついた帽子を目深にかぶり直す。
どの宿り木の下にも既に先客がいる。
ここはセントラルパーク。人も集まる。ちょっと考えてみればわかることだったのに、あの時の自分は柄にもなく含んだ手段を取ることで精一杯だった。
「それに……大河くんが気づいたかどうかもわからないし。」
ここ数日、お互い忙しくてゆっくり話す時間が無かったのでカードを受け取った後の大河の反応が見れてないのだ。
「ラチェットさん、呼びましたか?」
諦めて、キャメラトロンで大河に連絡を入れようとしたと同時に背後から響いた声に心臓が飛び上がった。
「た、大河くん!?」
「良かったぁ〜ここにいなかったら、ぼくカードの意味を間違えたのかと思いました。」
ほっと胸をなで下ろした大河の頬がほんのりと赤い。
おそらく今まで宿り木のある場所を走り回っていたのだろう。
「ごめんなさいね、大河くん…わかりにくかったわよね。肝心の宿り木の下も無理だったし……」
しゅんと目を伏せるラチェットだったが大河の動く気配に顔を上げると、彼は右手を高く上げている。
そのままその指先までたどると、丁度ラチェットの頭上にあったその手には小さな宿り木の飾りが握られていた。
驚いて大河の顔を見やると彼はにっこりと笑っていた。
「これで大丈夫ですよ。えへへへ…マギーさんのお店で買い物をしたときに貰ったものを持ってて良かったです。」
「大河くん……」
「でも、どうして宿り木の下だったんですか?」
感激して思わず涙ぐみそうになった気分が一気に醒めた。
思わずこめかみを押さえたくなったが、その反面、意味がわからないままでもこんなに自分のことを考えてくれてることが嬉しくて、ラチェットは笑いを零した。
今年はこれで良しとしておきましょう。
きょとんとしている大河の頬を包んで、キスをすると顔を見なくても大河の驚きが伝わってくる。
「あのね、クリスマスに宿り木の下でキスをすると幸せになれるのよ。」
「そ、そうだったんですか!?」
驚きつつも右手はそのままで声が上擦っている大河に微笑んだまま頷く。
「次は、大河くんから幸せのクリスマスプレゼントを頂戴ね。」
とても楽しそうに笑うラチェットに、大河は生真面目にこくこくと頷く。
その意味は来年、というものだったが宿り木を上げたままで距離を縮めて来た大河をラチェットは拒むことなく受け入れた。
宿り木の下で恋人同士がキスをしたら婚約ということになる。
と、次の言葉を考えながら。
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