それは些細なことだったが、塵も積もれば山となる。
「……大河くん。」
「はい…」
「ダメじゃない、もっとしっかりしなきゃ。」
ラチェットは諭すような口調だったが両手を腰に当てて真っ直ぐに見つめられると、妙に迫力がある。
当事者である大河は心から反省し、項垂れていたがさらにシュンとなってしまう。
(とほほ…何でいつもこうなのかなぁ)
目頭が熱くなってきてしまったのをどうにか堪えようと顔に力を入れる。
(泣いちゃダメだ!ここで泣いたら…)
その顔を見たラチェットは目をぱちくりさせた後、素早くポケットからある物を取り出した。
(ぼくは星組の隊長なんだからもっとしっかりしなきゃ…)
そんな意志に反して瞬きをすれば涙がこぼれそうな程潤んだ瞳の大河の耳に聞き慣れたシャッター音が響く。
音につられて顔を上げると、キャメラトロンを構えているラチェットと目が合った。
「えっと…その…大河くんの泣き顔がかわいかったから、つい……」
バツの悪そうなラチェットだったが写真はしっかりと握っている。
「どれどれ…わぁ〜!確かに傑作ですね!」
その背後にはどこから湧いたのか星組メンバーが勢揃いしていた。
「み、みんないつの間に……」
驚きで涙も引いた大河の呟きに答える者は一人も居らず、皆ラチェットが撮ったばかりの写真に釘付けだった。
「なぁラチェット、キャメラトロンに焼き増し機能つけられないか?」
「そうね、検討してみようかしら。」
「あ、あの……?」
所在なさげに声を出した大河にかつて世界を魅了した笑顔と、今現在ブロードウェイの注目を浴びているスターたちの楽しげな表情が向けられる。
「大河くん、これからも頑張ってね。」
その一言に大河は精一杯目をそらしつつも、頷くことしかできなかった。
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