実戦部隊を支える支援部隊。
その最重要とも言える任務は確実な情報をいかに早く処理するかである。

「じゃあ、いきますよ……こちら大帝国劇場。シャノワール、リトルリップシアター、聞こえますか?」

高村椿の緊張気味な声が地下作戦指令室に響くと、中央で二分割された巨大モニターに四人の人物が映し出された。

「こちらシャノワール。問題ありません。」

上段に映し出されたメルの声がよく通る。すぐ傍に立つシーの明るい笑顔も鮮明に見えた。

「リトルリップシアターも、問題ないわ。」

下段には言葉の最後にウインクを付けたプラムとそのプラムの後ろからひょっこりと顔を出している杏里がノイズがほとんど無く映っている。

「こっちも大丈夫ね。」
「回線強化、無事に完了!」

椿の後ろで機械と向き合っていたかすみと由里が顔を上げて笑顔を交わす。

「これで、もっと早く情報交換ができるようになりますね!」

椿が溌剌と告げると、後ろから由里が目を輝かせながら身を乗り出してきた。

「そうだ!あたし前から紐育のお二人に聞きたいことがあったんです!」
「由里、公私混同は……」
「まぁまぁかすみさん。すぐですから!」

僅かに眉間に皺を寄せるかすみを笑顔でかわした由里が再びモニターに目を戻すと、プラムと杏里が笑顔を向けてきていた。

「いいわよぉん。何かしら?」
「プチミントさんってどんな感じなんですか?」
「はいっ?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった杏里に由里はさらに続けた。

「おしゃべりキネマトロンで話題になってたから気になってたんですけど、あれは画像が無いから姿がわからないんですよ。写真とかありませんか?」
「なるほど、そういうことならおやすいご用よぉん。ほら、これが今注目のプチミントよ!」

さっとポケットから一枚のブロマイドを取り出したプラムがモニターに突きつけると、反応は様々だった。

「これ……男の方、なんですよね?」
「これは…」

言葉を失いかけたのはメルとかすみ。

「わぁー!とってもかわいらしいですぅ!ヒューヒュー!」
「大神さんと血がつながってるとは思えないくらいノリノリですね!」
「なるほど、たしかにかわいらしいですね。」

目を輝かせてモニターに注目したのはシー、椿で、言い出した由里は冷静にふんふんと頷いた。

「最近はこれ意外にも衣装が増えたんですよ!」

えっへんと胸を張る杏里にプラムもウインクする。

「その写真がまだ無いのが残念ね。もうすぐ出来上がるのよねぇん……そのうち、メイド服とかも着たりしてね。杏里、そんな予定は無いの?」
「うーん、今のところは…でもプラムが言うならあたしがんばるよ!」
「あ、メイド服なら大神さんも着ましたよぉ〜」

二人で盛り上がっていたところに軽い調子で割り込んできたシーの言葉に全員が注目した。

「ちょっとシーさん!それ本当ですか?」
「えー!大神さん、あたしたちにはそんなの一言も言わないのにっ」
「まぁ、普通は言わないと思うわよ……でも、どうして着たの?」

特に食いついたのは三人娘だった。
モニターに食いつかんばかりの勢いの椿と由里を両手で制したかすみがメルとシーに視線を合わせると、苦笑いを浮かべてメルが口を開いた。

「それは…大神さんが巴里に来て2ヶ月程経った時期に、グリシーヌ様と決闘をしたんです。結果はグリシーヌ様を気遣われた大神さんが負けてしまい…」
「そのときのお約束で、グリシーヌ様のお屋敷で1日働くことになったんです。そしたら制服がメイド服だったんですよねぇ〜」

続いたシーがさらにブルーメール家のメイド服について説明を付け加えると、一同からも苦笑としか言いようの無い表情がこぼれた。

「そういうわけで、女の子の服は大河さんの方が似合いますねぇ」
「そうね、あたしもそう思うわ。タイガーってとってもキュートなんだからぁん。」

うんうんと頷き合うシーとプラムにそれぞれの横にいたメルや杏里も控えめに同意している。

「うーん、でも色気では大神さんの方が今は上だと思うなぁ」

話がまとまりかけたとかすみが思ったのもつかの間、隣にいた由里の発言に全員が注目してしまった。

「えぇー?そうですかぁ?」

声に出して否定したのはシーだけだったが、他の面々も気持ちは同じだろう。
由里は楽しそうに笑っている。軽く肩をすくめてからかすみは椿を見た。

「仕方ないわね…椿、あの写真って今持ってる?」

大神さんごめんなさい。
心の中で謝りながらも、椿は笑顔で懐から一枚の写真を取り出し、モニターからよく見えるように高く上げた。。
それは和服の女性だった。黒に色鮮やかな染めが施された衣を纏い、綺麗に結われた黒髪に縁取られた顔は端正だがその顔には見覚えがある。

「まさか……」

絶句したメルに由里はにっこりと止めの一言を向ける。

「そう、大神さんです。すごいでしょーあたしたちもビックリしたんだから。」
「実は花組さんの中に、女らしさに一時期悩まれた方がいて…」

事の発端は桐島カンナが雑誌の好きな男優ナンバーワンに選ばれたことだ。
複雑な心境のカンナが女らしさとは何かと大神に相談したところ、大神は歌舞伎の女形にそのヒントがあると考え、それをカンナに教えるべくまず自らが歌舞伎役者に所作指導を仰いだのだ。だが。

「結局それも自分の個性だって吹っ切れたから、それで一件落着だったんです。でも、せっかく大神さんが姫姿になってたから頼み込んで一枚撮らせてもらったんです。」
「大急ぎでメイクしたんですから。どうですか?」

モニターに大写しになったその姿に巴里も紐育も何も言えなかった。たしかにプチミントとはまったく違う魅力がある。
その様子に由里は満足したように笑い、かすみと椿はこっそりと目を合わせて苦笑いを飲み込んだ。

「まさに、大神さんの意外な一面ですねぇ〜ね、メル。」
「そ、そうね…」
「大河さんにも着物似合うかな?」
「タイガーなら何だって似合うわよ。でもどうせなら二人並んだ姿も見てみたいわね。」
「あ!それいいアイデアですね!」
「実現したときには、必ずブロマイド作りましょうね!」
「まったく……でも、気持ちはわかるわ。」

帝国華撃団総司令兼巴里華撃団隊長と紐育華撃団隊長が顔を合わせるチャンスは少ないだろう。その僅かな機会を逃さぬよう、七人全員が心に誓いモニターごしに互いの目を見て頷いた時

「いいっ!?」
「お、大神さん突然どうしたんですか?」

「わひゃあっ!?」
「し、新次郎いきなりどうしたの?」

遠く離れた土地で、よく似た動作で首筋の辺りをさすった大神と大河は同じ言葉を口にした。

「なんだか急に寒気がして……」




「サクラ」ページへ戻る