まだ距離があるのにすぐに見つけられたのはあのベストは意外に目立つからか、彼だからか。
そんな事が一瞬頭を掠めるが、それ以上は思案せずに昴は方向転換し大河に近づいた。
交差点に立つ大河はその先の光景に夢中で昴にはまったく気付いていない。
「ストリートフェアが珍しいのかい?大河。」
「あ、昴さん!」
「昴は言った……紐育に来て数日というわけでもないだろう、と。」
大都市に相応しくマンハッタン島には様々な通りがある。その通りの一部を車両禁止し、道の両脇に様々な屋台が立ち並ぶイベントをストリートフェアと呼ぶ。紐育では週末になるとどこかの通りで必ず開催されていると言っても過言ではない。
「たしかにそうなんですけど、こんなに規模の大きなものは初めて見ましたし、あのお店が気になって…」
大河が指した先には、日本的な屋台があった。そこで売られているのは食べ物や怪しげなキモノではなく、日本の縁日を思わせる狐やひょっとこの面だった。下の方には風車もあり、子供たちの興味を引いていた。
「昔、母さんに縁日でああいうお面を買ってもらったんです。」
「なるほど…君は縁日が好きそうだな。」
「はい!いつも見ている景色なのに、その時だけは屋台が並んだり、お囃子が聞こえたりして…すごくワクワクしました。」
あの特別な雰囲気がすごく好きだった。それに通じるものが、このストリートフェアにはあるように思える。
「昴さんはどうだったんですか?」
何気なく聞いた大河に昴は表情を崩さずに答えた。
「僕は生憎そういうものに縁が無くてね。自分で足を運んだことは無かったな。」
「あ…そうだったんですか……」
「ふっ……そんな顔をするな。深い意味があるわけではない。」
悪いことを聞いたと顔に書いてある大河を見て昴は苦笑いを零す。そんなつもりで言ったのではない。
「でも……」
「なら、紐育の縁日を一緒に見ながら君の思い出話を聞かせてくれ。もちろん、君さえよければだが。」
昴の提案に、大河はぱっと表情を明るくして頷いた。
「もちろんです!じゃあ、行きましょう。」
勢い良くストリートフェアへと一歩踏み出す大河。その大河の耳には聞こえないように、昴は更に言葉を付け加える。
「…僕には、自分の欠けた過去よりも君と過ごす今が大事なんだ。」
心の欠片である君と在ることで昴はやっと満たされるのだから。
滅多に見せない本心からの微笑みを浮かべた昴は大河の隣に立つべく足を進めた。
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