「よし、これでお茶の準備は完了っと。」

楽屋のテーブルに並べたティーセットを見て、大河は小さく頷いた。

「あら、タイガー1人?」

そこへ意外そうな声と共に小さな紙袋を持ったプラムが顔を覗かせた。

「あ、プラムさん。みんなは舞台にいますよ。」
「お茶の準備をしていたの?そんなの言ってくれればあたしがやったのに。」
「でも、皆さん忙しいのに…これくらい大丈夫ですよ。」
「きゃっふ〜ん!本当にタイガーはいい子なんだから。」
「そ、そんな事無いですよ。えへへへ……」

ぎゅっと抱きしめられた大河は照れ笑いを浮かべながら離れた。

「んもう、かわいいんだから。そうだ、タイガーお菓子の準備はまだよね。」
「あ、はい。これからです。」
「なら、これ食べない?」

プラムが紙袋から取り出したのは透明な袋に入った大小様々な星形のクッキーだった。

「あ、これってもしかして…」
「そう、特別公演で出す特製クッキーよぉん。」
「食べちゃっていいんですか?」
「実はこれ、型くずれしちゃったやつなのよ。綺麗なのはもうラッピングして準備完了してるわ。」

もう一度クッキーをまじまじと見た大河は本当だ、と頷いた。
だが、砕けているわけではなく、ほんの少し欠けているというものばかりだ。

「味は保証するけど、お客様に出すわけにはいかないのよ。だから、食べてくれると助かるわ。」
「わかりました。じゃあ、いただきますね。」

プラムからクッキーを受け取った大河はティーセットと同じ場所にしまってある菓子皿を取り出し、そこへ広げた。

「………」
「どうしたのタイガー?」

大小入り混じったクッキーをじっと見ている大河に疑問の声をかけると、大河はいくつかのクッキーを皿の上で積み上げた。

「プラムさん、こうやって重ねるとなんだかツリーみたいに見えませんか?」

ほら、と子供のように目を輝かせた大河にプラムは目を瞬かせるが、すぐに満面の笑顔を浮かべて先ほどよりも強い力で大河を抱きしめた。

「きゃっふ〜ん!!タイガー、このアイデアすっごくいいわ!」
「わひゃあっ!プ、プラムさん苦しいですっ」
「ね、どうせならもっとちゃんとデコレーションしてみんなを驚かせましょう。ちょっとドリンクバーまで一緒に来て!」
「は、はい!えへへ、なんだかワクワクしてきました。」
「うふふ…あたしもよぉん。」



「あれ、二人とも何してるんですか?」

それから数十分後。
楽屋へとやって来た星組一同の先頭だったジェミニがテーブルを隠すように立っている大河とプラムに声をかけると、二人は目を合わせてにっこりと笑った。

「くんくん…なんか甘いにおいがするぞ!」
「うふふ…今日のティータイムのおやつはスペシャルなのよぉん!」

鼻をひくつかせながら前に出てきたリカリッタに答えると同時に二人はさっと左右に移動してテーブルの上に用意した物を見せた。すると、わっとその場が湧いた。

「まぁ!なんて可愛らしいツリーなんでしょう。」

ダイアナのうっとりとした声にジェミニも頷く。
そこには、ホワイトチョコレートで接着、飾り付けされたクッキーのツリーが五つ並んでいた。

「ふぅん…考えたね。」
「なぁ!これ、食べていいのかっ?」

素直に感心を示す昴の横でうずうずしているリカリッタにプラムはにっこりと微笑んだ。

「ええ、もちろんよ。一つずつどうぞ。」
「わーい!いっただきま〜す!!」
「リカ、ちゃんと座って食べなって。」

至福、と立ったまま天辺からツリーを頬張るリカリッタにやんわりと注意したサジータも定位置に座ってツリーのひと欠片を口に入れる。

「プラムさん、よかったですね。」

和気藹々とした空気に大河が隣に立つプラムに笑いかけると、プラムはどこからかもう一つツリーを取り出して大河の手に持たせた。

「はい、これはタイガーの分よ。」
「えっ?」

大河はきょとんとなる。
自分たちは急遽ということで五つのツリーしか作っていないはずだったからだ。

「こっそり作っておいたのよ。手伝ってくれたお礼。」
「あ、新次郎もツリー持ってる!今お茶煎れてるからちょっと待っててね。」
「ああ、あたしはいいわ。これから行くところがあるのよ。じゃあ、みんな楽しんでね〜」

ポンと大河の肩を軽く叩き、星組にウインクをしたプラムはそのままきびすを返して軽やかに廊下を進んだ。

「プラムさん、ありがとうございました!」

楽屋から響いたお礼の声に笑顔で振り向くが、足は止めずに手を振るだけで留める。

(本当は、お礼を言わなきゃいけないのはこっちなのよねぇん……)

僅かな時間だったが二人きりで準備をしていた時間が、大河のためにこっそりツリーを作っていた時間がプラムは本当に楽しかったのだ。

(素敵な時間をありがと、タイガー。)

人知れず微笑んだプラムは、まるでクリスマスプレゼントを貰ったように幸せそうだった。




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