「ええと…………よし、これでいいかな。」
マギーの店から出た大河は抱えている袋の中身を指折り数えて一つ頷いた。
残念ながらそのものが無かったものもあるが、代用品は買えたから問題は無い。
「あ、しんじろーだ!」
さて、と一歩踏み出すと同時に名前を呼ばれて振り返るとすぐ近くの曲がり角からリカリッタとジェミニが手を振っていた。
「おっはろ〜!朝から買い物?」
「うん、ちょっと食べたいものがあって。二人はこれから朝ご飯?」
「んー…そうしようと思ってたんだけど…」
珍しく口ごもったジェミニがリカリッタの方を見るとリカリッタは両腕を突き上げて眉を寄せた。
「だから、リカは元気だぞ!へいきだぞ!」
「ダメ!そんな赤い顔して…」
ジェミニに言われてリカリッタの顔改めてを見た大河は確かにと納得した。いつもより大分頬が赤い。
「リカ、風邪ひいたの?」
「そうみたいなんだ…でも、お医者さんに行くのが嫌みたいでさ。だからダイアナさんのところに連れていこうと思って。」
「うん、それがいいね。ぼくも一緒に行こうか?」
「いいの?ほら、新次郎も一緒に来てくれるってさ。だから大丈夫だよ。」
「うん…わかった。」
ジェミニの言葉からかなりリカリッタが渋っていたのだとわかる。
大河は荷物を片手にリカリッタの手を握って歩くように促すと、リカリッタは足取りがまだ重たいながらも歩き出した。
「よしよし、じゃあシアターに行こう。ダイアナさん、今日は朝稽古があるって言ってたから。」
ジェミニを先頭にまっすぐにシアターに向かう。
ほどなくしてシアターに到着し、ジェミニがダイアナの様子を見に行った。
ロビーに残された二人は誰もいないドリンクバーの椅子に座って待つことにした。
「……リカ、お腹すいたぞ。ノコ食っていいか?」
不服そうにテーブルに突っ伏したリカリッタの腕に掴まれて慌てているノコを助けた大河はリカリッタの顔の前にずいっと自分の顔を近づけて言い聞かせた。
「ノコはダメ。ちゃんとダイアナさんに看てもらったらぼくがご飯作ってあげるから。」
「ホントか!?なら、リカもう少しガマンする。」
「おまたせ〜!ダイアナさん、楽屋にいたからそっちに行こう。」
話がついた所に丁度ジェミニが帰ってきた。
「じゃあ、ぼくはご飯を作るから終わったらこっちにおいで。」
「おう!じゃあ、行ってくるな。」
ジェミニと一緒に楽屋へと向かう後ろ姿を見送った大河はドリンクバーの中に入り腕まくりをして持ってきた袋の中身を出した。
「ええと、たしかここに……あったあった。」
棚の奥を探り、目当ての食器であった土鍋を取り出してコンロの上に乗せる。
「これでよし、と…後は……」
テキパキと作業を進め、用意した材料全てを土鍋に入れて蓋をする。
後はこのまま煮込めば完成だ。
「昴は尋ねる……何をしている、と。」
不意に声をかけられ顔を上げると昴とサジータがこちらをのぞき込んでいた。
「あ、昴さんにサジータさん。おはようございます!」
「おはよう。で、本当に何してるんだ?」
「実は……」
大河が掻い摘んで事実を説明すると、昴は納得したのか頷いた。
「なるほど、だからか。」
「はい。丁度7日で食べたいと思っていたのでそのままリカにも食べてもらおうと思います。」
「おい、二人で話を進めるなよ。」
一人話に置いて行かれたサジータが声を上げると昴は軽く肩を竦めてから口を開いた。
「七草粥だよ。」
「ナナクサガユ?」
「日本の正月の風習の一つさ。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ…これらは春の七草と呼び、これらを入れた粥を1月7日に食べると無病息災でいられると言われている。」
昴の説明に素直に感心を示すと、ジェミニたちが戻ってきた。ダイアナも一緒だ。
「あれ、サジータとすばるもいるぞ。」
「リカの風邪は大丈夫なのか?」
「ええ。ごく軽いものだと思います。食欲もありますし、お薬を飲んで今日一日ぐっすりと休めばすぐに良くなりますよ。」
「しんじろー、リカごはん食べるぞ!」
「わかったよ、ちょっと待ってて。」
待ちきれないと言わんばかりに目を輝かせるリカリッタに、大河は鍋の蓋を取ってその出来を確認する。なかなか上出来だ。
「あ、良かったら皆さんもどうですか?たくさん作ったので。」
まずリカリッタの分を器によそった大河がここに集まった面々に訊ねると、全員が頷いた。
次々に器を用意し、最後に自分の分をよそった大河が席に着くのを待って食べ始める。
「とても優しい味ですね。」
「ニッポンの食べ物ってホントにヘルシーだよね。」
黙々と食べる昴やダイアナ、ジェミニは気に入った様子だったがサジータとリカリッタは物足りなさそうに塩を足していた。それでも、その顔は笑顔で食事を楽しんでいるようだった。
そんな様子を見ながら、大河も七草粥を一口食べ、そして願った。
今年もみんなが健康に過ごせますように。
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