街を歩くとどこからか軽快な音楽が流れてくる。
西洋菓子店には普段より煌びやかなケーキが目立つようになり、百貨店にはとっておきの品を探しに様々な人が訪れる。
すっかりクリスマスに馴染んだ帝都には笑顔が溢れていた。
中でも銀座四丁目を賑わせていたのは言わずと知れた大帝国劇場だった。
毎年盛況のクリスマス公演を今年はファンの要望に応えて20日から始めたにもかかわらず連日満員御礼で花組を始め劇場スタッフは嬉しい悲鳴を上げていた。
24日の昼公演をもって無事に今年最後の舞台の幕を無事に下ろした後は恒例の打ち上げとレニの誕生日パーティーに突入となり、主役であるレニは照れながらも微笑み幸せな時間に感謝していた。

そんな賑やかさも収まった25日の早朝。
ひっそりと起き出したレニは手のひらに収まる程の小さな箱がたくさん詰まった袋を持ち、仲間達の部屋の前に立った。
そして、一つ一つ丁寧に箱に付けられた紐をドアノブに引っ掛けていく。
そのまま足音を忍ばせ、まだ主のいない事務局と売店に向かい同じように箱を置いていく。
再び二階に戻ったレニはかえでの部屋のドアノブにも箱を引っ掛けたが最後の大神の部屋だけはそれができなかった。

「あれ、レニ?」

箱を手にした瞬間、大神がドアを開けてしまったのだ。

「こんなに朝早くどうしたんだい?」

投げかけられた質問に答えないわけにもいかず、レニは箱を持ったまま大神をサロンに促した。


「…お礼をしたかったんだ」

コトン、と向かいの席に座った大神の目の前に箱を起きながらレニは呟いた。

「お礼?」
「去年も、一昨年も、公演で疲れてるのに、みんな笑顔で祝ってくれるから」

マリアを中心に手料理を用意してくれたり、心の籠もったプレゼントを準備してくれたり。でも、それらをレニが手伝うことはできない。
手伝おうとすると、主役だからと止められてしまうのだ。

「だから、それならボクはお礼を用意すればいいんだって考えて」

そこまで言葉にしたところで、立ち上がってレニと距離を縮めた大神は頭を撫でられた。

「……そんな、気持ちだけでいいのに」
「そう言われると思ったから、極秘で準備していたんだ」

なのに、隊長に見つかってしまった。と少し残念そうな声を出すレニに思わず笑顔を零すと大神は机に置かれたままの箱を手にした。
これ以上の遠慮はレニに対して失礼だ。

「ありがとう。開けてもいいかな?」
「…どうぞ」

丁寧に包装を外し、中身を確認するとそれは星形のケースに入った金平糖だった。

「これなら、みんな食べられると思って」

ケースの中には青と白の小さな金平糖がキラキラと輝いている。
じっとこちらを見上げてくるレニの頭をもう一度、今度は長く撫でて大神はうんうんと頷いた。

「ありがとう、レニ。みんなもきっと喜ぶよ」
「ううん、こっちこそありがとう」

誕生日は成長の具合を計る基準点でしか無かった日に、それ以上の意味をくれた。
生きている喜びを、知ることができた特別な日。
だから、ありがとう。

レニが椿の誕生パーティー準備のために早起きをしたアイリスやカンナをはじめとしたメンバーに熱烈なお礼を言われることになるのはそれから半時ほどのことだった。




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