Reborn


彼女を初めて見たとき、その黒いドレスが彼女をひどく現実感の無いものにしていて、まるでおとぎ話の中のヒロインのようだったのを覚えている。
その姿は華やかな街の中で、ひっそりと咲くデイジーのようだった。

日本から遠く離れたこの地で、日本に出会えたと思った。
迫水大使も日本人だが、典型的な日本人とは言えないような気がする。しかし、外交官と してやっていくためには、そういう日本人離れした国際感覚が必要なのかも知れない。
自分もまた大使と同様、日本のために日々戦っている。しかし、自分は日本人だというこ とにこだわりたい。そうでなければ、自分の今までを否定してしまうような気がするから だ。それは、自分のアイデンティティであり、レーゾンデートルである。 洋装の彼女に出会って、自分が何者なのかを改めて自覚した。

彼女の過去を聞いたとき、軽やかなブロンドを思い出した。
失われた大切な人を思う気持ち。
そこに洋の東西は無かった。
彼女は自らの手で未来を勝ち取った。
では、彼女は?

「大神。おめぇはな、触媒なんだよ。」

自分は触媒。隊員達の潜在能力を引き出し、化学反応を起こさせ、爆発的な力を発揮させ る。化学反応が起こった後には残らないもの。
隊員達が女性ばかりである理由。女性は自ら未来を作るからだと聞かされた。子を産み、 育てて、未来を作る。
つまり、俺の為すべきことは、彼女達の作る未来のために彼女達を生きて帰すこと。それ が俺の未来の作りかた。たとえ俺自身はその未来にいないとしても。

俺は彼女の心に傘をさしてあげられるだろうか。いや、ささねばならない。彼女の作る未来のために。
だから俺は手を伸ばす。力の限り手を伸ばす。

「心配するな。俺は死なない!どんなことがあろうと君を一人にはしない!! だから、君も死ぬことなんか考えるな! フィリップさんが生きていても、俺と同じことを言ったはずだ!!」

彼女の心は強かった。たやすく折れそうな、その細い体にこれほどの強さがあるとは、グ リシーヌも知らなかったに違いない。
「これで最後にしますから」と泣く彼女の肩に触れながら、俺は彼女の作る未来を思い描 いていた。



     END


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