墨染桜の色が変わるとき
彼が大好きな花を持って、私は今日も彼に会いに行きます。
昨日の出来事を私はあなたに話さずにはいられないの。だって、あなたは私の全てだから
「フィリップ、聞いて。
この前もお話した東洋から来た殿方にお会いしてお話したの。
大神さんっておっしゃるのよ。日本のお話をたくさんしてくれたのよ。
私が父から聞いていた日本の殿方のイメージとは少し違っていたけど…
…あなたと似ているの。
あ、でも…似ていると言ってもお顔とかが…と言うわけではないのよ。
なんとなく…そう……雰囲気と言うのかしら…優しそうな所が似ている気がするの。
あの方はきっとグリシーヌの良い友人になってくれると思うわ。」
フィリップ……私はあなたの言葉どおり、笑って過ごしています。だから…あなたも笑ってください。
あなたは私の全てなのです。なのに……
「…大神さんがね、こんなお話を聞かせてくれたの。
日本には京都という都があって、そこにある墨染という所に咲く桜の花は……
大切な人が死んだとき、残された人の悲しい心を思いやって自らも喪の色を纏うのですって。
…その桜は、遠く離れている私の心にも気づいてくれて、墨染色に咲いてくれていたのでしょうか?」
なのに……どうしてあなたは私の傍からいなくなってしまったのでしょう。
私…あなたの帰りをずっとずっと待っています。
いえ、あなたが来られないのであれば私が参ります。あなたに会えるのであれば、怖くはありません。
あなたに会うためなら…私はどんな事でもします。
「叶えてやろう、死の望みを……」
潮の香り…黒い海…頬を打ち付ける雨…唸る風……全てが視界を遮る嵐………ああ、私はあの時に帰ってきたんだわ。
フィリップ…!フィリップ!!手を伸ばして!!
あぁ……いや。せっかく会えたのに、あなたを失ってしまうの?
そんなのいや!もう、あんな思いは……いや!!
フィリップ、お願い…手を伸ばして!!!!
……この手が彼をつかめない…私は…また、一人ぼっち……
なら、もう……この支えている手を放して、私も彼と一緒に……
「心配するな!俺は死なない!!
どんな事があろうと君を一人にしない!!」
えっ…フィリップの声じゃない?
誰?誰なの……お、大神さん!!フィリップじゃない…では、私は帰ってきたのではないの?
じゃあ、これは何なの?夢?悪夢……?
不思議……あの時と同じひどい嵐なのに、大神さんの声がよく聞こえる。
「だから、君も死ぬことなんて考えるな!
フィリップさんが生きていても、俺と同じ事を言ったはずだ!!」
!!………あぁ、そう……そうなのね、フィリップ。そうだったのね。
ごめんなさい。私ったら、あなたの最後の本当の望みを叶えてあげられなくて。
…受け入れます。あの日の全てを。そして、今度こそ、あなたの願いを……
「私だって…私だって……生きたい!!」
フィリップ、あなたは私の全てです。今も、それは変わりません。
私はあなたとあなたと過ごした思い出全てを抱きしめて、新たな夢を、生命(いのち)を生きます。
私を思ってくださるかけがえのない人々と、新たなる物語を生きます。
だから―――見守っていてくださいね。フィリップ。
END
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