さぁ、いよいよ第二幕です!!
第二幕は劇中劇なのでセリフなども、基本的にその人が演じている役で書きます。
それにしても、今年は衣装が豪華!!どの衣装も本当に綺麗なんです!

ああ、それともう一つ。
前回の「海神別荘」は原作を読んでから劇場に行けたのですが、今回は長編&バイトなどで時間が取れなかったので原作を読んでませんので、その辺はご容赦くださいませ。m(__)m

開演ブザーが鳴ると、程なくしてアナウンスが…

マリア「ご来場の皆さま。本日はお暑い中、大帝国劇場にご来場賜り、ありがとうございます。
    まことに恐縮ではございますが
    今一度、蒸気携帯電話などの電源をお切り下さいますよう、お願い申し上げます。

    では、これより。曲亭馬琴・原作。金田金四郎・脚色による
    花組「新編・八犬伝」を開演いたします。
    どうぞ最後まで、ご観覧ください。」

暗くなり、会場が静まり返ると、上手から雲国斉さんが登場。
富士をかたどった台に「東中軒雲国斉」と書かれていて、その台に位置して唄いだします。

雲国斉「ほんの些細な約束さえも 切れぬ絆の因縁か
    言葉違えて裏切る者は 末代までの祟りある

    これは昔々の物語 房州里見一族に降りかかりました奇怪な事件!
    さてその発端は!

    愛を持って平和を願う それが世のため人のため
    天下に名高き里見の城に 隣国城主攻め込んだ
    平和条約打ち捨て破り 奇襲攻撃だまし討ち

    そもそもこれは、隣国の城主、安西影連の愛人であります玉梓の発案!
    影面の軍勢が里見の城深く攻め込もうとした時!
    敵陣深く潜り込んでおりました里見の忠臣、金碗大輔が玉梓を捕らえてまいりました!」

奈落から、金碗大輔(大神一郎)と里見義実(米田一基)、そして玉梓が登場。
玉梓は人形浄瑠璃。(声は雲国斉さん)
舞台の上に出きると、大輔は膝をつく。

玉梓「ああ、お許しください。
   どうか、どうかご慈悲を…義実公…!」

手をついて命乞いをする玉梓を、背を向けて聞く義実。

大輔「ええい、黙れ!
   …殿!この女こそ、影連を色香で誑かし、今回の事の企てた張本人でございまするぞ!!」

玉梓「それは…!それは何かの間違いでございます!
   わたくしは無理矢理影連の側室にされましたのでございます…!
   ですから、なにとぞ…なにとぞ…!!」

大輔「ええい!まだ言うか!!」

義実、振り返り扇で玉梓を指す。

義実「この者は所詮女。その色香に誑かされる、男こそ悪い。
   玉梓を許そう。」

大輔「殿!この者は嘘をついております!!」

義実「それでも許そう。この玉梓を許そう!」

玉梓「あああ…ありがとうございます!!」

義実の言葉に、玉梓深く頭を下げる。
が、なおも大輔は引かず、義実に抗議する。

大輔「殿!この女は嘘をついております!!…嘘を言う女に、愛は通じませぬ!
   ここでこの者を逃がせば、また他の男を誑かし、この里見を狙いまするぞ!
   ……殿。この金碗大輔に、切れとお命じください。」

義実「……………」

大輔「殿も…この女の色香に誑かされましたか!?
   里見を滅ぼすおつもりですか!!?」

義実「……切れ!!」

義実の言葉に、玉梓は驚愕する。

大輔「はっ…!」

大輔、立ち上がり刀を抜く。玉梓の首めがけて構える。
すると、玉梓の美しい顔が、変貌する。

玉梓「おのれぇぇ〜〜〜!!!」

夜叉のごとき形相で、義実を、大輔を見るが、大輔かまわず刀を降りおろす。

大輔「でぇい!!」

切られた玉梓の首が高く高く飛ぶ。
赤い照明で、まるで暗黒の世
(義実、大輔、奈落で消える。)

玉梓「おのれ義実…!
   人の上に立つ者が言の葉を違えるとは、こりゃ何たる事か如何なものか
   人の言の葉は神々の根源をもって発するべき。
   その言の葉を天前を持って違えたとは、愛を説く資格なし!
   里見は犬じゃ…犬の血族じゃ!!
   わしはこの世の全ての愛を呪い殺してくれるわ!!!」

憎しみ深い言葉と笑い声を残して、暗転。
舞台の幕が開くと、そこは戦場。里見の城は敵国に深く攻め込まれ絶体絶命。

犬坂「大丈夫か?犬飼。まだ負けたわけではないぞ。」

負傷した仲間を励ます。が、多勢に無勢。
ところが、どうしたことか。敵陣の旗がどんどん崩れていくではないか!

犬坂「これは…!安西影連の軍が総崩れじゃ!!
   殿!里見は救われましたぞ!」

犬坂(西村ヤン太郎)の歓喜の声で、上手より義実とお付きの剣士。そして山下定包(団耕助)、大輔、伏姫(藤枝かえで)も舞台へ。

定包「なぜだ…あれほど勢いのあった影連の軍勢が…」

義実「天運が、我々に味方したのじゃろう!」

定包「…は!」

義実「これぞ、北斗の神のご加護であろうぞ!!」

剣士に出された椅子に腰掛ける。(客席から見て)左に定包が控え、右には大輔と伏姫。その後ろには犬坂。
そこへ、下手よりなにかを咥えた犬が走ってきた。

義実「おお、八房!」

八房と名の犬、咥えてきたものを放す。
定包がそれを確認する。

定包「おぉ…!これは!!
   敵将、安西影連の首でございまするぞ!!」

義実「なんと!
   おお、八房、ようやった。天晴れ!」

足元で喉を鳴らしている八房をなでる。

義実「しかし、敵将ながら犬に首を取られるとは、なんとも不憫。
   犬坂!丁重に葬ってやれ。」

犬坂「は!」

懐から白い布を取り出し、首の前で合掌をして丁重に布へくるむと、上手へ。
そのとき、義実はいとおしそうに八房をなでる。

義実「よしよし、八房。
   お前は里見の危機を救った忠義者。望みを申してみよ。」

すると、八房、伏姫へ飛び掛る。
が、伏姫を守ろうとした大輔に阻まれ、剣士に取り押さえられる。

大輔「八房!」

伏姫「無礼であろう、八房!」

剣士「この…!」

八房、唸る。

義実「これこれ、八房。
   悪戯が過ぎるぞ。」

なおも、唸る八房。その姿に、義実は自分の発した言葉を思い出した。

義実「!八房…お前……」

定包「ええい!この犬畜生め!
   成敗してくれる!!」

刀を抜いて切りかかろうとした定包を、伏姫が止める。

伏姫「おやめなさい!」

定包「しかし、姫…!」

伏姫「控えよ定包。殿の愛犬であるぞ。」

定包「…は!」

刀を納め、元の位置へ控えると、義実が口を開く。

義実「八房よ。確かにわしは影面の首を取ってまいれば、褒美として我が姫をやると申した。」

伏姫「父上…!そのような約束を!?」

義実「しかし、それは戯言!
   大切な姫を、犬にくれてやるわけにはいかん!許せよ、八房。」

義実の言葉に、唸りかかる八房。
しばし考えた伏姫は、意を決して言葉を発する。

伏姫「いいえ…いいえ!父上!
   戯言とは言えど、武士たる者が一度口にした言葉を違える事はなりませぬ!
   …私は、八房と共に参ります。」

大輔「なりません、姫様!!」

大輔の言葉に続いて、義実が立ち上がり止める。

義実「ならん!ならんぞ!
   人と犬が、夫婦(めおと)になれるわけがない!!」

伏姫「夫婦にはなりませぬ。ただ、共に暮らすだけでございます。
   ですが、世間がそれを許しますまい。
   ですから、どこかに隠れ住みます…どうか、お探しにならぬよう。
   ……八房を放しなさい。」

八房を取り押さえていた剣士が、義実を見る。
義実、首で促す。
自由となった八房は、伏姫へなつく。

伏姫「かわいそうな事をしましたね…
   さぁ、八房。」

八房と並んで、城を後にするべく足を踏み出した時、大輔が伏姫の手を持つ。

大輔「姫様…!」

伏姫「!……っはなせ、大輔!
   お前にもわかっておろう!言の葉を違える事は、愛をなくす事ぞ!
   それこそは、我が里見の恥じであろう!!」

自分に言い聞かせるような伏姫。

義実「…伏姫。これへ。」

沈んだ声で、伏姫を呼ぶ義実。

伏姫「はい。」

義実、懐に刺してあった短剣を伏姫を見ることなく差し出す。

義実「我が家の宝、村雨丸をそなたに授ける。
   これは愛を守る者が持つ宝剣。今は、そなたにこそ相応しい。」

伏姫「…はい。」

伏姫が刀を受け取ると、義実は我が娘の顔を見る。
しばし目で会話した後、懐に村雨丸を収め、意を決して伏姫立ち上がる。

伏姫「…八房!」

伏姫の声に、八房が足元へ。

伏姫「…参ろうぞ。」

ゆっくりとした足取りで、城を後にする伏姫と八房。立ち上がる義実。
出る直前、伏姫が振り返ると、大輔と目があう。が、すぐに前を向くと、もう城を出てしまった。
大輔が顔を伏せると、義実が力なく腰掛ける。

義実「…思えばあの子は、夏の盛りの三伏で生まれたので伏姫と名付けた。
   そのせいか、犬に従う運命を暗示しておったのか…
   しかし、我が手で応急した子を、犬にくれてやらねばならぬとは…!
   定包。わしはもう、死んでしまいたい…!!」

控えていた定包の肩に手を置き、消沈する義実を、定包は力づける。

定包「しっかりなさいませ!!
   殿は…この里見の要でございまするぞ!!」

義実「…定包。
   一度口にした言の葉の、なんと重きことよのう…」

そこへ、巨大な落雷音。
妖しげな空気があたりを包むと、玉梓の首が宙に浮かんでいるではないか。

玉梓「今より妾(わらわ)は、山下定包に乗り移る!」

巨大な落雷音とともに、剣士が一人、また一人とやられる。

定包「うわぁあぁぁぁぁ!!!」

大輔「定包様!!」

定包「だ、大輔!
   と、殿を頼む!!」

さらに、一際大きい落雷音。

定包「うがあぁぁあぁぁぁ…!!
   心が…心が…バラッバラになっていく…!!」

義実「定包!心を強く持て!!
   お前はわしの支えじゃ!定包!!」

が、義実の叫びむなしく、定包は倒れる。

大輔「定包様!!」

玉梓「ははははは…!
   義実!お前が心を寄せる者全ての夢や希望を打ち砕いてくれよう!!」

義実「おのれ玉梓が怨霊!
   そんな事はさせんぞ!!」

が、玉梓の強い妖力の前に、義実の心臓はわし掴みされる。
大輔も、まだ体の自由が利かない。

義実「ぐっ……」

おぼつかない足取りで、舞台の前へ。

玉梓「地獄に落ちろ、義実。
   そして、さ迷え…夢や希望も無い暗黒の世界を、永遠にさ迷え!!」

義実「ぐあぁぁぁ!!」

ようやく身体の自由がきくようになった大輔が義実を支えるが、時既に遅し。

大輔「義実様!!」

義実「大輔!伏姫を、伏姫を頼む…!!
   うっ……ぐぁあぁああぁぁぁ!!!!」

大輔「殿!しっかりなさいませ、殿!
   殿!!……殿ーーー!!!」

玉梓「ははははは…!!」

奈落で沈んでいく二人と入れ違いに、奈落から悪の化身となった定包が登場。
玉梓の笑い声を重なる。

定包「はははははは…!!
   里見義実は死んだ!今より、この山下定包がこの城を支配する!
   金碗大輔は捕らえて打ち首!伏姫を探し出し、その命を取れ!
   里見の血族を、根絶やしにしてくれるわ!!
   ははははは!!!」

バサッと降りてきた簡易幕が赤く照らされ、妖力の満ちた空間に、上手より犬坂が走り出る。

犬坂「殿!?殿!!
   !…貴様、山下定包!!
   この不忠義者!!殿に代わり、この犬坂政則が成敗してくれる!
   覚悟!!」

刀を抜き、定包に切りかかる。が、強大な力の前に、刀は通じない。

犬坂「ぐっ……!」

それでもなお、切りかかろうとする犬坂の動きを止める。

定包「ははははは!…ぬん!!」

犬坂「が…!」

定包「バカめ…犬坂……」

刀を落とし、金縛りの犬坂の腹に刃を当てる。

犬坂「ぐ…っ」

やっとの思いで、刃を放そうと手を動かすが、力の差は歴然。

定包「でぇい!!」

上から振り下ろされた刀に切られ、犬坂は事切れる。

犬坂「ぐあぁああ!!」

定包「くくっ…ひゃーっはははははは!!!」

犬坂の骸を前にして、高笑いを浮かべる定包。
舞台暗転。

しばらくして、奈落より伏姫が合掌して現れる。
すぐ横では、八房が寝息を立てている。

♪伏姫祈願

伏姫の切々とした願いが表現されていてじーんときちゃいました。
日舞の振り付けもステキでした。
歌い上げて、伏姫のセリフ。(歌の終わりで起きた八房をなでながら)

伏姫「この富山の洞窟に隠れ住んで、早八月…」

そこへ、下手より、鯉を持った宮司(丘菊之丞)が登場。

宮司「…姫様。」

伏姫「おお、宮司殿。」

互いに、会釈を交わす。

宮司「お加減は如何でしょう?」

伏姫「毎晩、不思議な夢を見るのです。
   北斗の神によって、私の心がバラバラにされ、輝く星々となって天空に散るのです。」

宮司「その夢は、吉兆でございましょう。きっと、良い事がございましょう。
   …さ、今日は鯉をお持ちしました。
   鯉釣りの名人、犬田文吾衛が姫様のために吊り上げた鯉でございます。
   鯉の生き血をお召し上がりになり、お力をおつけなさいませ。」

宮司、鯉を差し出すが、伏姫は微笑んで首を振る

伏姫「魚辺に里と書く鯉は、我が家の宝。
   口には出来ませぬ。」

宮司「しかし、姫様も里見の大事な宝。
   里見の鯉を食べ、寿命を永らえさせるのが、里見のためとなりましょう。
   …文吾衛も、姫様のお身体を按じておりました。」

伏姫「鯉は、八房にやってください。」

宮司「しかし…!」

伏姫「どうか…」

伏姫の願いを聞き、宮司は八房の前へ鯉を置く。八房、鯉を食べ始める。

伏姫「ところで…父上は、いかがなさっておりますか?」

宮司「…はい、ご健勝でございます。」

伏姫「里見の者は、皆健やかに暮らしておりますか?」

宮司「…はい。」

伏姫「良かった…」

定包の事を知らぬ姫は、素直に喜ぶ。
宮司、そそくさと立ち上がる。

宮司「では、わたしはこれで…」

伏姫「八房は良い子にしていると、父上にお伝えください。」

宮司「…わかりました。では…」

歩き出した宮司を、伏姫またも止める。

伏姫「宮司殿…!
   大輔は…金碗大輔は、いかが…?」

声に特別な感情を隠し切れない伏姫の言葉に、宮司は何も言わずに去っていく。

宮司「…ごめんくださいまし。」

宮司も去り、静かになった洞窟で、伏姫は一人名を呼ぶ。

伏姫「ああ、大輔…我が心はそなたを……」

そこに、上手のお社の影より兵士が…

兵士「む…!
   あれは伏姫!!」

兵士が銃を構えると、気配を感じた八房が吼える。
伏姫は気づいていない。

伏姫「八房!?
   どうしたのだ、八房!!」

発砲された銃弾に、伏姫を庇い倒れる八房。

伏姫「八房っ!!」

兵士、第二発目を構える。そこへ、兵士の後を追って大輔が。

大輔「おのれ…!!」

だが、一歩遅し。
銃身を抑えるが、銃弾は伏姫へ。

伏姫「…っ!!」

倒れる伏姫。銃身を弾き、兵士を切り捨て伏姫に駆け寄る大輔。

大輔「姫様!!」

伏姫「おお、大輔…!
   八房、八房は…」

目が見えていないのか、八房を手探りする伏姫。
大輔が八房の骸へ導く。

伏姫「おお、八房…!!
   かわいそうに……!」

嘆く伏姫。
今度は大輔へ想いを告げる。

伏姫「私は、八房と暮らしましたが、この身は潔白です…!」

大輔「わかっております!!」

大輔の言葉に安心したのか、顔を緩ませる伏姫

伏姫「…良かった…これで、人の女として死ねます。
   大輔…そなたの、腕の中で果てる事ができたのが、なにより……」

伏姫の手から力が抜ける。

大輔「姫様?…伏姫様!!
   ……っ」

伏姫の骸を静かに横たわらせ、嘆く大輔。

大輔「わたしは…!なんと情けないっ
   犬畜生の八房でさえ、愛する者のために命を落としたというのに…!
   わたしはっ…わたしはっ…!!」

なおも嘆く大輔。
ふと、伏姫の懐にさされた村雨丸が目に入る。

大輔「そうだ…」

大輔、村雨丸をかがげる。

大輔「そうだ…!
   もう、この世に生きている甲斐が無い…!
   この上は、あの世まで…あなた様のお供を!!」

村雨丸を抜き、喉元に当てる。

大輔「伏姫様!!!」

大輔、刀に力を入れる。
舞台が赤く照らされ、八房、伏姫、大輔の三人が奈落で下へ降りていく。
消えたところで舞台暗転。雲国斉さんが登場。

雲国斉「海が良し、月にまた良し、花が良し。
    四季の風情の里見の国 そんな平和なこの国に降って湧いたる災難不幸

    父の約束守った姫は 犬と暮らして愛を断つ
    されど悲しや伏姫の愛 想う男に届いて消えた
    しかしこの世で叶わぬ愛とても せめてあの世で契りあう

    今。伏姫の後を追い、大輔、見事喉をかき切りますと
    二人の血が混じりあい、これは不思議、摩訶不思議!伏姫の身体から八つの玉が飛び出した!」

舞台の奈落部分より、光る八つの玉が現れる。

雲国斉「仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌!
    この八つの玉こそ、伏姫と大輔の愛の結晶でございましょう。
    これが世に名高き、里見八犬士の誕生でございます!!」

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