そして舞台は暗転。紗幕が降りると、上手から山田警部を先頭に川岡刑事が悔しそうに歩いてきます。

川岡刑事「ちっくしょう、あの小娘…警察なめてますよ!
     明日は絶対自白させてやる!」

頭に血が上っている川岡刑事とは対照的に、思案顔の山田警部。

山田警部「我々が…間違ってるのか?」

舞台中央あたりでぽつりをそう呟いて立ち止まります。

川岡刑事「え?」

山田警部「いや…なんでもない。
     川岡!お前肩に力が入りすぎだ。(扇子でぱしぱしと川岡の肩を叩く)
     捜査に大事なのは、粘り腰だ!」

川岡刑事「粘り腰?」

山田警部「見たいか?」
川岡刑事「はい。」
山田警部「どうしても見たいか?」
川岡刑事「はい。」
山田警部「じゃあ見ちゃうか?!」
川岡刑事「見ちゃいます。」
山田警部「やっぱり見ないか?」
川岡刑事「じゃあ、見ません。」
山田警部「いや見てくれよ。」

面白い台詞のやり取りでした。(笑)
ということで、上着を脱ぎ始める山田警部。それに気づいた川岡刑事は後ろから上着を持ってお手伝い。
「お、ありがとう。」と言いながら、脱ぎ終わったかと思えば……あれ?そのまま一周。(^^;;

川岡刑事「あぁやっぱり着ちゃうんだ;;」

そう、毎回脱いだかと思えば着ちゃうんです。(笑)
そして、上着を着なおした山田警部はびしっと手を上げてポーズ!

山田警部「家に来い!!」

川岡刑事「よろこんで!」

あ、自宅で粘り腰を見せるってことですか?(^^;;
というわけで二人ともさっさと下手へと向かっていきました。
そして紗幕が上がり舞台は変わる。次の場所へと…次は室内ですがここは……舞台上には3つの丸テーブル。下手側の階段下回転する部分にはバーカウンター……つまりバーですね。でもあまり明るい人間がそろう場所ではなさそうですね。座っている面々の顔つきや雰囲気を見ると。上手側のテーブルには見覚えがある人もいますが…武田と西村。そう、一応これが本業ですよね、彼らは;;

その店の入り口(下手側奥の出入り口に扉が設けられてました。)を開けて入ってきたのは二人の見目麗しい女性。
そう、マリアとレニ。店の男たちの目線と「ヒュウ〜」という声が二人に向けられ、数人が立ち上がりスタスタと入り込んでくるマリアとレニを下手の方で囲みます。
ちょっと慌てて立ち上がって様子を見る武田と西村。

チンピラ「よう姉ちゃんたちよ。ここはあんた達がくるような場所じゃないぜ?」
チンピラ「それとも、オレ達と遊びたいのか?」
チンピラ「へへっ危険な遊びをよぉ〜」

なれなれしく触ってくるギャングたちの言葉にマリアは答えず、代わりに腕を一ひねり。
さすが!予想外の強さにチンピラたちは驚き、臨戦体勢。
刃物を取り出してる輩もおりますが、二人の敵ではありません。あっという間に向かってくるチンピラたちを倒すと、倒されたチンピラたちはそそくさと店を出て聞きます。そんな二人に残った者たちから拍手が。特に大きな拍手をしながら近寄っていく武田と西村。

西村「いやぁ、さすがマリアさんとレニさんだ。そこらのチンピラなんてメじゃありませんね。」

武田「ああ、でもここはまずいです。ここは素人さんが来るような所じゃございませんよ。
   ささっお引き取りください。」

二人を守る為か、店を出ることを勧める武田ですがそうはいかない今回の二人。
さてどうしたものかと思った矢先に上手側の二階部分から声がかかります。

ボス「かまわねぇよ!」

西村「ボス!」

ボス「何か、大事な御用なんでしょう?
   ほら、何してんだテーブルへご案内しろ。」

さすがボス!階段を下りて二人の下へ。
先ほどまで武田と西村が座っていたテーブルに席を設け、そこに三人が座り後ろに武田と西村が立つと、会話のスタートです。

ボス「で、どのような御用で?

マリア「…さくらが、桃栗小僧と間違えられて今警察にいるの。」

ボス「!?さくらさんが…!」

マリア「だから、さくらを助ける為に、桃栗小僧を捕まえたいの。」

単刀直入。けど、それゆえにマリアとレニのさくらを助けたいと思う真摯な気持ちが現れてます。
それがわからないボスではありません。けれど…

ボス「い、いきなりそんなこと言われましても…
   第一、あっちは泥棒でしょう。あっしらとは、稼業が…」

レニ「裏の社会は繋がってるんでしょう?」

ボス「それは……」

マリア「ちょっとしたヒントでいいの。ね、教えて?」

ボス「…………」

西村「マリアさん、そりゃあ…出来ない相談ってやつですよ。
   いくら稼業が違うとはいえ、裏社会の情報を軽々と言う訳にはいかないんですよ。
   そんな事をしたら、僕たちはこの世界から爪弾きにされてしまいます。」

ボスの言葉が詰まっているところを見て、西村が口を出してきます。

武田「そうそう、あっしら信用商売ですからね。」

武田も、マリアとレニの間に入りながらこの世界で生きるための掟を説きます。
ですが、今回はマリアも必死です。

マリア「…くだらないのね。」

絡み手だろうが、挑発だろうがもてる話術を駆使して情報を得ようとします。
そして、挑発に乗ってしまうのが武田です。(汗)

武田「あぁ!?
   花組さん花組さんって言ってりゃいい気になりやがって!!!!」

ボス「やめねぇか!!!」

でも、ボスはそんな挑発には乗りません。

マリア「お願い、ほんの少しでいいの。」

ボス「……申し訳ありませんが、こればっかりは…!」

座ったまま、深々と頭を下げるボス。

マリア「そう……
    さくらを助けなきゃって時に、随分冷たいのね。」

ボス「…あっしら男を売る商売。それが仲間を売ったとあっちゃ…!」

レニ「ボクたちは仲間じゃないの?」

ボス「!………」

マリアの絡みを含んだ言葉と、レニのストレートな言葉。特にレニから出る「仲間」の言葉は客席の方がぐっときましたね。
それでも、俯いて言葉を発する気配を見せないボス。
そしてマリアは立ち上がる。

マリア「…もういいわ。ありがとう。
    さようなら。」

静かに、それだけを言ってレニの肩に手を置きレニにも退席を促す。
きっと、その「さようなら」は「またね」の意味では無いのでしょう。
扉へと向かい始めた二人。でもとうとうボスが立ち上がる!!

ボス「マリアさん!!!」

♪俺には俺の仁義が

すごい、今回の隠し曲の中では一番好きかもしれません。音楽劇らしい曲で、ボスたち男の力強い声とマリアとレニの澄んだ通る歌声が見事に調和・対立していました。

ボス「♪待ってくれ 俺は苦悩している
    俺には俺の仁義があるんだ」

マリア「仁義って何?」

ボス「♪それは裏社会に生きる掟
西村  守らなくてはならない男の生き様
武田  たとえ親が死んでも 恋人が泣いても」
ボス「♪守らなくちゃいけない 男の生き方」
ボス「♪仲間は売れない!」
西村
武田

上手側にいた面々ですが、ダンディ団のパートで踊りながら上手から下手の方へと移動。

マリア「♪なんて陳腐な なんてくだらない
     それが仲間なの?」

レニ「♪仲間って何?
    同じ世界に繋がる者たち
二人「♪それが仲間?」
レニ「仲間は」
 マリア「♪苦しみも」
    レニ「♪共にして」
       マリア「♪喜びも」
二人「♪同じ気持ちで繋がる者たち
    それが仲間」

対して、マリアとレニも下手から舞台中央へと歩みながら三人を囲んでいきます。

ボス「♪待ってくれ
    俺には守らなくちゃいけないものがある」

ここで長めの間奏。
ダンディ団が下手の方で(特にボスが)苦悩を踊ります。
上手〜舞台中央で踊っていたマリアとレニの振りはほぼ同じ。揺るぐことのない気持ちが現れているようでした。

二人「♪守るべきものは何?」
ボス「♪それは男の生きかた。」
二人「♪守るべきものは何?!」
ボス「♪それは男の面子!」
二人「♪命かけて守るべきもの それは仲間
    守るべきは仲間!」

バーでの互いの信念の戦いは、マリアとレニの思いの方が大きかったのか二人が押し切った形で終曲となりました。
と同時に、再びテーブルの前に揃った形でストーリーに戻ります。

ボス「俺は……!俺は!!」

西村「ボス!」

揺れて揺れ動くボスの心。そして出てきた言葉は……

ボス「…俺は……骨の髄までギャングなんですよ。」

レニ「…マリア、行こう。」

今度はレニが先に立ち上がり、扉へと向かいだしました。マリアもそれに続き今度こそ、さよならか…と思いきや、ボスは腹を決めたようです。

ボス「マリアさん!!…レニさん。
   …………インケツの政だ。」

ボスがその名を口にした途端、店の中がざわつきます!吐き捨てるように舌打ちする奴ら。心配する武田や西村を余所にボスは喋りつづけます。

ボス「そいつが裏社会の口入れ屋だ。
   一文字横丁の白鳥ってバーで毎晩…
   そいつならきっと、桃栗小僧のことを知っています。」

マリア「…ありがとう!」

心を込めて礼をして去っていくマリア。深く頭を下げて、何も言わずその後に続くレニ。残されたボスは、しょうがねぇなといった面持ちでイスに座りグラスを傾けます。
周りのギャングたちの目線は冷たい。

西村「ボ、ボス!いいんですか?!」

ボス「…いいんだよ。いいんだ。」

心配する西村と武田にはは…と笑いながらグラスを傾けるボス。
……男だよ、ボス…でもどうかこのまま村八分になりませんように;;
「ダンディー」のスローテンポが流れる中、暗転。
初日はこれで終わりだったんですが、14日以降ここに新たなシーンが加わりました。
紗幕が降りたまま舞台に照明が戻ると、下手から先ほどバーにいたギャング(黒いスーツに帽子にサングラス。アタッシュケースを持っています。)とその親分(えーと、あの…「サクラ3」で出てきたギャングのボスに似ています。)が歩いてきます。

ギャング「ったくダンディの野郎もヤキがまわったな。
     女にベラベラ秘密喋りやがって。」

ドン「ばかやろう。(ふかした葉巻を手に持って、舞台中央で止まる)
   …優作、お前何にもわかってねぇや。
   確かに奴は裏社会の掟を破った。
   俺達裏社会に生きる者にとって掟ってのは絶対だ。(部下を追い越して上手の方へ)
   けどよ、奴はそれ以上に大切なものを守ったんだよ。」

ギャング「大切なもの?ドン、なんですかそりゃ。」

ドン「へっ…お前にゃ一生かかってもわからないだろうな。
   おい、もう一件行くぞ。」

ふむ…なるほど、あの場に居た下っ端はともかく、上に立つ人たちには理解されてたみたいですね。
理解が掟破りにどう働くかはまだわかりませんが……無駄に邪見にされないといいですね;;
二人が上手へと消えると再び暗転。ちなみに、余談ですが親分さんが「優作」と言ったとき、会場からはにわか笑いが起きてました。(笑)
さて、情報を掴んだマリアとレニですが、もう一方の情報を求めて走り去っていった織姫と紅蘭(ショルダーバッグ付き)は……地下に住むあの人たちと共に舞台中央奥に設けられたなにやら薄暗〜い階段を下っていました。(舞台全体もかなり暗いです。ほぼ暗転のまま?)

織姫「ひゃあぁ!!ネズミー!!!」

琴音「ああ、暗いから気をつけてね。」

琴音さんを先頭に、織姫、紅蘭、菊之丞と並んでいます。

織姫「まだですかー!?この地下臭いでーす!」

琴音「もう少しよ。あ、この階段すっごく滑りやすいから気をつけてね。」

うぇぇ…と嫌な声を出す織姫。(^^;;

紅蘭「それにしても、薔薇組はんはホンマにこんな下水まみれの汚い暗がりに住んでたんやね〜
   驚きやわ〜。」

菊之丞「汚い言うなー」

紅蘭「あ、すんまへん;;」

一歩一歩確実に階段を下りていく4人。
けど、薔薇組の部屋って……帝劇の倉庫から直結してませんでした?(^^;;
それとも今はまったく違うところにあるのかしら?

琴音「ほら、水清ければ魚住まずって言うじゃない。
   清濁併せ呑むことが大事なんじゃないかしら。
   汚いものの中で住んでるからこそ、綺麗なものが見えることもあるのよ。」

ふ〜ん…と気持ちだけの返事をする二人。
さて、階段を下り終わったメンバーの先に待ち受けるのは…いろいろ見えない仕掛。(笑)
無い物をある様に見せる演劇のイマジネーション!

琴音「あ、ここから狭いからね。体1つしかとおらないわよ。」

よっと…と、壁と壁の隙間を通り抜けるパントマイム〜(笑)
皆さんお上手ですよ。で、下手の端の方へと抜けてきた面々。じつはここまでの行程はすべて紗幕が降りたままの状態だったのです。
ここで紗幕がちょっとだけ上がってまして…

琴音「あ、ここねすっごく低く…(紗幕が上がってる高さを見て)
   ホントに低いわね!(笑)
   勇気がある人はリンボーダンスで通ってね。」

ってことで、琴音さんはリンボーに挑戦!15日の夜は見事に成功してましたよ!(^^)
織姫と紅蘭も試みてましたが…「あ〜無理や〜」と膝をついて普通に通ってました。
18日・夜では織姫成功してました!!

琴音「さ、ドア開けて…(ドアを手前に開けるジェスチャー)
   ここから右に曲がって…」

ということで上手の方に進むわけですが…またまた狭そうです。(^^;;

織姫「(目の前、足元を見て)ってこれ下水じゃないですかー!」

琴音「そう、この下水ね、底なし下水って呼ばれてて落ちたら二度と浮んでこれないって噂よ。
   あと、得体の知れない何かが住んでるって…」

うえぇぇぇ…と本気で嫌そうな顔をする織姫と紅蘭。と、そこでどちらかがバランスを崩し、あわや下水に落ちるか!?という事態に!!(汗)
そんな四人の目の前(実際はありませんが)で大きな水音と共に何かが跳ねました!驚いて、体勢も元に戻りましてよ。(笑)

織姫「……なんか居た…!」

琴音「あたしはね、斧彦じゃないかって思ってるわ。」

斧彦さん!?煤i ̄□ ̄;;;;;;;
げ、下水に住み着いてるんですかい?(滝汗)
で、なんとか底なし下水を抜けた四人は…

琴音「あ、ここ階段になってるから。」

と、舞台の中央付近で階段を下って、すぐに上るジェスチャー。

琴音「みんな、付いてきてる?(後ろを確認する琴音さん。)
   あ!この先ね、蒸気が二本出てるのよ。
   手前が上で、向こうっ側が下ね。潜って、跳んで華麗によけて頂戴。」

……今更ですが、すんげぇデンジャラスな行程ですよね;;;
まずは琴音さんから。シューッ!シューッ!!と蒸気の噴出す音にあわせてジャンプして飛び込み前転で通り抜ける琴音さん。さすが!
続いて、織姫。助走をつけていざ行きますが…手前は後一歩のところで蒸気が顔を掠めて余熱を受けてしまったようで…それに気を取られて奥の蒸気では失敗してスカートにちょっとかかってしまいました。(^^;;
慌てて足元を流れる水で流しますが、琴音さんに「それ下水…」とつっこまれてしまった…と顔をゆがめる織姫。ちょっと踏んだり蹴ったりですね;;
続いて紅蘭ですが…

紅蘭「こんなこともあろうかと!!(バッグに両手を突っ込む)
   ちゃんちゃらっちゃっちゃ〜ん♪
   蒸気止めくん2号〜〜!!」

と、かけていたショルダーバッグの中から銀色に光る鍋つかみ…もとい、蒸気止めくん2号を手にして挑む!

紅蘭「はっ(手前を止めて)
   ほっ(奥も止めて)
   …はい!」

琴音「あなた賢いわね〜!」

紅蘭ですから。(笑)難なくクリア!
続いて菊ちゃんですが……ひょいとしゃがんで手前をよけると、奥の方はひらりと一回転ジャンプでよけてました。琴音さんも「華麗だわ〜」と絶賛。たしかに、華麗で優雅。(笑)
上手の端まで来た4人はいつの間にかすべて降りていた紗幕の前へ。

琴音「あ、このシャッターの向うだからね!
   (紗幕の下を掴む)あたしが上げるから。」

よいしょっとシャッターが上がる効果音と共に、琴音さんが自分の腰ぐらいまで上げると、織姫、紅蘭、菊ちゃんが次々と中へ。

織姫「へぇ〜中は結構広くなってるんですねー
   (ごんっと効果音)あ痛っ!!!」

琴音「あ、そこ配管剥き出しになってる!」

織姫「ん〜〜早く言ってくださーい…」

おでこをおさえながらの織姫、本当に踏んだり蹴ったりですね;;
さらに力を込めてシャッターを上まで上げる琴音さん。なんか、すっごい音してましたけどね。(^^;;
で、紗幕が上がりきると、目的の部屋はもうすぐそこ。先ほど稽古場で大神さん達が座っていた場所が薔薇組の部屋になっています。これが、本当にゲームの部屋に忠実でビックリ。
再び琴音さんが先頭になると「入り口もね、狭いのよ。これくらい。」と利休の茶室のような大きさの入り口を手で作って、鍵を開けるためにハンドルをあけるジェスチャー。この鍵開け方法…効果音の入りが毎日微妙に違っていました。(笑)
ガタッ…と音がして扉が開くと同時に「うっ」と鼻をつまむ紅蘭と織姫

琴音「なんかにおう?」

ううん。と首を振る二人。きっと、思いもよらないくらいバラの香りに満ちてたんでしょうね。(^^;;
ということで、ようやく到着です〜〜!長い行程でしたね。(笑)
やっと一息つく紅蘭と織姫。薔薇組の部屋も狭いんですが、今までよりは安全ですものね。
その間に、琴音さんが入り口から見て一番奥(こちらから見ると一番手前)の鏡台の前に座って髪を整えて菊ちゃんは香水を部屋にまいて…ってやっぱりバラの香りが充満してるんだ;;

琴音「適当に座って頂戴。
   で、相談って?」

はっそうそう、忘れる所でした。(^^;;
情報が目的だったんですよね。ぱっと真顔になった織姫が机の上に手をつきながら琴音さんを見ます。

織姫「元陸軍情報将校だった琴音さんに頼みがあるの。」

琴音「…さくらさんのことね。」

菊之丞「なによ〜普段は邪見にしてるくせに〜」

と、ポーズだけすねてみせる菊ちゃんに紅蘭が堪忍な〜と顔の前で手を合わせて謝る。
それにしても、さすが琴音さん耳が早いですね。織姫と紅蘭が顔を見合わせていると、菊ちゃんがちょっとごめんなさいね。と言って机の下を潜って左端においてあたラジオのようなものをいじくり、ヘッドホンを耳につけて何かの調整をしています。

琴音「さくらさんが捕まって、秘密がばれちゃいけないものね。
   だからその前に、桃栗小僧を捕まえようって事ね。」

紅蘭「さっすが琴音はん、話が早いわ〜」

織姫「警察情報を取って欲しいの。」

ちょっと考えるように間を置く琴音さん。でも、ボスと違って苦悩する要素が無いわけですから…

琴音「いいわよ。(やったぁ!と喜ぶ紅蘭と織姫)
   花組のピンチですものね。
   (立ち上がって机の真ん中へ)あのね、灯台もと暮らしって言うでしょ。
   情報の核心は、警察の中にあったりするのよ。」

菊之丞「受信完了!」

どうぞ、とヘッドホンを琴音さんに渡す菊ちゃん。なるほど…あれは、無線傍受するための機械だったんですね!

琴音「ありがとう。(ヘッドホンをつける)
   ええと、何々…桃栗小僧が盗みに入ったのは、日本橋、九段、赤坂……へぇ〜なるほどね。
   (ヘッドホンを机の上に置く)菊之丞、地図!」

菊之丞「はい!」

言うが早いか、壁にかかっていたバラのマークが入ったカーテンを開けると、そこには帝都東京の地図が!
おお…薔薇組って実はやっぱりすごい!?

琴音「いい?こうやって、桃栗小僧が盗みに入った場所は、日本橋、九段、赤坂。
   この三つの場所を線で結ぶと…
   (地図に赤マジックで丸をしていき、それらの点を線で結ぶ)
   ほら、三角形になったでしょ。(ああ!と感心する織姫と紅蘭)
   この頂点の先のどこかに、アジトがあるわね。」

紅蘭「そんなことまで解かるん!?」

菊之丞「その通り!これは、情報戦の基本中の基本。
    無意識下の行動という、カテゴリー!」

琴音「ま、確率は85パーセントってとこね。」

へぇ〜〜!!と感心しきりの紅蘭と織姫。
なんだか…歌謡ショウで初めて薔薇組が軍人だったってことを意識させてくれますね。
なおも地図を見て推察を重ねる琴音さん。

琴音「あたしの勘だと、この日本橋の先が怪しいわね。隅田川の川っぷち。
   特に…(地図に丸をつける)蛎殻町から門前仲町の間だと、私はにらむわ。
   (地図を掴んで壁からはがす)さっこの地図あげるから持っていきなさい。」

紅蘭「おおきに!」

織姫「グラッチェ!」

貴重な情報を得ることが出来た織姫と紅蘭。菊之丞が地図を丸めている間に、琴音さんは扇子を片手に、イスに座り…なんだか少し寂しげな表情。

琴音「それにしても、花組さんはいいわね。
   仲間の危機にみんなが結束して…
   あたしたちは陸軍の情報将校だったのに、随分冷たい仕打ちを受けて
   今じゃこんな……(紅蘭と織姫の目線に気づく)
   あ、あらいけない。こんなところで愚痴っても仕方ないわね。
   さ、早く持っていきなさい。」

孤独な、影のような匂いを漂わせた薔薇組に、ひしっと抱きつく紅蘭と織姫。(紅蘭が菊ちゃんに、織姫が琴音さんです。)

織姫「…薔薇組も、大事な仲間だと思ってまーす。」

ニッコリと笑う二人。そうそう、薔薇組も立派な仲間ですよね。

琴音「……ありがとう。(紅蘭と織姫に向き直る)
   お願い、なんとしてもさくらさんを救出して頂戴!」

紅蘭・織姫「了解!!」

お互いに敬礼を交わし、菊ちゃんから丸められた地図を受け取ると、薔薇組の部屋を出る紅蘭と織姫。

琴音「気をつけてね。ああ、帰り道わかる?」

見送る琴音さんと菊ちゃん。ええと、こうやってああやって…と来た道筋を反すうしてみる二人ですが…

紅蘭・織姫「〜〜〜〜〜めんどくさいーー!!!!」

と、そんなのを無視して下手へダッシュ!(笑)
見送る二人もビックリ。(^^;;

琴音「…菊之丞、あんな近道知ってた?」

菊之丞「さぁ…?
    でも、琴音さんやっと本業で花組さんのお役に立てましたね。」

琴音「そうね。」

そうですね、歌謡ショウでは初ですね。(^^;;
だからこそ、今回の薔薇組はいつもよりかっこ良く見えたり…してるかな。
さて、役目を終えた二人が部屋に戻ったその瞬間。ブツッと何かが切れる音が。(笑)

菊之丞「あ、電球切れた。」

琴音「ちょっと菊之丞、あなたまた中古の電球買ってきたわね!?」

ごそごそと机の上をあさって懐中電灯を取り出す琴音さん。まぁ手馴れてること。(^^;;
お互いの顔に台詞ごとに下からライトを当てて喋ります。

菊之丞「そんなこと言ったって、資金難なんですから。
    お金何とかしてください琴音さん。」

琴音「何言ってるの。金は天下の回りものって言うでしょ!」

菊之丞「回ってきません!」

琴音「…お願い、だれか」

二人「回して〜〜〜」

二人がそう言うと同時に、薔薇組の部屋が回転。(笑!)

二人「回った……」

舞台がね。(大笑)
そのまま暗転。紗幕が降りると舞台の上手側にスポットがあたります。
そこに、上手からマリアとレニが登場。このあたりのはず…と周りを見渡していると、レニが上手舞台兼通路にあるセットの電柱に貼られた「一文字横丁」の文字を発見。

レニ「マリア、ここ!
   一文字横丁。」

レニに呼ばれたマリアもそちらを見ると、今度は壁に貼られた「バー 白鳥」の張り紙を発見。

マリア「バー白鳥…」

レニ「どうする?踏み込む?」

マリア「…様子を見ましょう。」

さすが、花組の頭脳派二人。方針を決めて頷きあったとたん「こんな店、二度と来るか!!」と怒声が…
慌ててマリアが電柱の影、レニがその後ろの壁際に移動すると、上手通路からいかにもガラの悪そうな男が現れました。その後ろを追いかける子分…

牛太郎「ちょっと待ってくれよ、インケツのアニキ!」

そう、その男こそ、捜していたインケツの政!

政「今日も出が悪かったなぁ牛太郎。」

牛太郎「まぁ、賽の目は丁半五分五分。照る日曇る日ありますって。」

政「そうだな。よし、景気づけに別の店行くか!」

牛太郎「へい!」

マリア「…政さん。」

二人が歩き出そうとしたその先にすっと現れるマリア。その後ろにレニ。
突然現れた人物に驚く政。

政「なんだてめぇらは。」

マリア「単刀直入に言うわ。
    桃栗小僧の居場所を教えて欲しいの。」

マリアの発言に、これは裏社会の話だと悟った政は表情を少しばかり変えた様子。

政「そんなこと知ってどうするんだ?」

マリア「あなたには関係のないことだわ。」

政「へへっ…随分威勢のいい姉ちゃんだな。
  ま、事と次第によっちゃ知らねぇ事はねぇがな。」

レニ「どうすればいい?」

あら、随分とストレートなレニ。まぁ、レニの良い所でもあるんですが<ストレートな言い回し。

政「そうだな…今、玉無しなんだよ。
  200円ほど都合してくれねぇか?」

ま、そんなこたぁ無理だろうがよ。
…そういうつもりで言ったのでしょう。かなりの大金ですものね。
私は当時の相場を今に置き換えると…なんて事は出来ない(詳しくない)訳ですが、軽く考えても……100万は越えているはずです。
うわ、こいつ絶対喋る気ないな!(汗)
ですが、政が相手にしているのはマリアさんです。おもむろに財布を取り出すと、無造作に政に投げ渡します。

マリア「そこに300円入ってるわ。」

……すごいよ、マリア。思わぬ返事にビックリして財布の中をのぞく政と牛太郎。
騙りではなく真実だった中身に、歓声を上げて財布をしまいこみます。

マリア「さ、桃栗小僧の居場所を教えて。」

そう、これで取引は成立したはず。ですが…

政・牛太郎「バァァーーカッ!!」

政「だれがおめぇらみてぇな姉ちゃんに教えるかよ。
  このインケツの政を、なめるなよ?」

あららら……ばっくれる気満々ですか;;
政がマリアにからみ、牛太郎がレニにからみます。

牛太郎「早くお家に帰って、飴玉でもしゃぶってな。」

政「しゃぶってな!」

二人こそ、随分なめられたものです。しばしの沈黙の後。
マリアの頭突きとレニの肘鉄がそれぞれにヒット!!あっという間に腕を捻られ、膝をつかされています。

マリア「…さぁ、教えて?」

優しい口調に、微笑み。けれど……ぜんっぜん目が笑ってません、ええ。(汗)

政「すみだがわのかわっぷちのせっけんこうじょうにいるって!!」

腕をとられながらも、まだ素直に喋ろうとしない政。同じく牛太郎を抑えているレニと目を合わせると、マリアは捻り上げてる腕をさらに捻り、再度聞きます。

マリア「…え?」

政「っ…隅田川の!川っぷちの、石鹸工場にいるって聞いてらぁ!!」

今度こそ、喋りましたね。
再びレニと目を合わせ、今度は頷く二人。

マリア「ありがとう。」

これを氷の微笑といわずなんと言う?といわんばかりの迫力を感じました。(^^;;
ぱっと二人が締めていた手を離すと、文字通り脱兎の如く上手通路口へと逃げ込む牛太郎と政。
二人とも、相手が悪かったですね。

レニ「石鹸工場!」

具体的な情報を掴む事に成功した二人は「うん!」と頷くと、急いで上手へと駆けていきました。
しばしの暗転。すぐに今度は下手の通路兼舞台の部分に照明が。

織姫「薔薇組さんから地図を貰ってきたでーす!」

完全に照明があたるようになると、そこにはかえでさんと大神さん、アイリス、そして地図を壁に張る紅蘭と織姫が。

紅蘭「それにしても大冒険でしたねー紅蘭!」

織姫「ほんまやねぇ。
   けど、薔薇組はんたちもええとこあるな。」

かえで「あの二人も、家族の一員って事かしら。」

ん〜金田先生が親戚のおじちゃんならば、薔薇組は家族同然の同居人って所でしょうかね。
でも、立派な仲間ですよね。(^^)

かえで「それにしても…蛎殻町から門前仲町と言っても広いわよ。」

織姫「琴音さんは、川っぷちのあたりが怪しいって言ってましたー。」

大神「川っぷち?」

織姫「(地図をなぞって)このあたりですね、隅田川。」

紅蘭「ん〜こりゃ虱潰しにいくしかないで〜?」

かえで「それじゃ時間がかかりすぎるわ。」

アイリス「じゃあ、どうすればいいの?」

う〜ん…と唸る面々。これだけじゃあ、まだ情報が足りないって事ですよね。
と、顎に手を当てて考えていた大神の目に、こちらへと駆けて来る二人の人物が映った様子。

大神「あ、おかえり!
   どうだった?」

そう、下手の通路口から出てきたのは、レニとマリア!

レニ「収穫あり。
   隅田川の川っぷちの石鹸工場ってところまで。
   でも隅田川広いから…」

織姫「薔薇組さんが、蛎殻町から門前仲町が怪しいって言ってました!!」

紅蘭「2つの情報を合わせると……(地図を目で追う)
   !!!!これや!!!(手にしていた赤マジックで大きく矢印を書く)
   にこにこ石鹸工場跡地!!」

いよいよ突き止めた!!!
全員の顔がぱぁっと明るくなります。

かえで「うん、まず間違いないわね。
    (後ろにいたマリアに向き直る)マリア、お願いね。」

マリア「はい。」

大神「よし!俺も…」

マリア「いえ、隊長はここに。
    これは、私たちだけでやらせてください。」

大神も一緒に乗り込む気満々…だったのですが、マリアに止められてしまいました。(^^;;

大神「…わかった。」

そして、隊長は納得も早いです。(まぁ、今は帝劇の責任者である彼ですから、おいそれと動かない方が良いというマリアの判断なのかもしれませんが)
大神が頷くと、花組の面々はお互いの顔を見て頷く。目指すは、桃栗小僧の捕獲!

かえで「みんな、頼んだわよ!」

かえでさんの檄に、威勢のいい返事をして上手通路へと走り去って行く。あ、アイリスはちょっと止まるとジャンポールをかえでさんに預けてから行きました。(^^)

かえで「しっかりね。」

アイリス「うん!」

最後尾になったアイリスを見送ると、残ったかえでと大神は静かに頷くと、地図を外します。
ここで暗転。
間を置くことなく紗幕が上がり、次のシーンへ。


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