帝国歌劇団・歌謡ショウ五周年記念公演「海神別荘」レポート
さて…次に舞台に出てきますは…荷車をひいた親方!
親方「ひ〜暑っいなぁ〜〜
こう暑いと、舞台の小道具調達するのも一苦労だ。
ちょっくら休んでいくか。」
と、すし屋の前のイスに腰をかける。
親方「しかし…今度の芝居はどんなのになるんだろうなぁ…
このカナダライ、いったいなんにつかうんだろ〜なぁ〜?」
暗転。
まさか親方の妄想か!?と思ったけど…違いました。(^^;;
舞台の下手に、温泉の一室……原稿に向かう金田先生と、横で原作を呼んでいる浴衣姿のかえでさん。
かえで「愛しているから憎い…
憎いから愛する……」
金田「人の心は、心底胸の中をあけてみないとわかりません。」
かえで「そんなにギリギリまで人を愛す事ができるかしら?」
金田「…そういう、愛の形もあるんでゲスなぁ。」
かえで「不思議ね……
そうそう、私初めて読んだんですけど…
泉鏡花ってとってもロマンチストなのね。
綺麗な言葉ばかり……」
金田「そこが難しいんでゲス。
泉鏡花先生の美しい言葉を生かしながら、花組ならではの舞台に仕上げる…」
かえで「そこが、先生の腕の見せ所ですわ。
期待してますわ。」
と、言いながら煎れていたお茶を金田に差し出す。
金田「ああ、こりゃどうも。
で、今書き流ししてるんですわ。」
かえでの入れたお茶を口に含み、また作業再開する。
金田「あ、そうそう…浪曲師の、東中軒雲国斉さん、頼んでいただけましたか?」
かえで「ああ、雲国斉さんね。
はい、頼みました。」
金田「いや、そうでゲスか!
浪花節語りの狂言回し…こりゃ一味違った魅力があるんでゲスよ!」
かえで「そうですか。
ああ、ところで…先生に頼まれて、親方に注文したカナダライ……
原作には、何処にもそんなシーンないのですけど…何に使うんですか」
金田「あ、あれはでゲスな……」
くくく…と笑いをこらえる金田先生。
と、そこに風呂上りの浴衣姿のダンディが。
ダンディ「いや〜いいお湯だったぁ〜〜
あれ?金田先生、どうかしたんですか?」
金田「あのカナダライはでゲスな……」
ダンディ「カナダライ?」
含み笑いしながら続く言葉は…
舞台の中心は再び親方へ。
親方が休んでいると、何とか武田(と織姫)撒いた松吉が家に帰ってきて……
松吉「いや〜〜…ヒデェ目にあった……」
が、追っ手が怖いのか、草履を手にして、店の奥へ…(おそらく、裏口から出たんでしょう)
そこに遅れて武田がやって来て…
武田「あの野郎…何処行きやがった?」
どうやら、まだ松吉を探しているようだ。
と、親方を見かけて声をかける。
武田「よぉ!親方。」
親方「あ、武田さんじゃないですか!」
武田「どうしたんだこのタライは?」
荷車に乗ったタライを見て、疑問を素直にぶつける。
親方「ああ、あの次回公演で使うって言うから、調達してきたんですよ。」
部屋の中に座りながらの親方の説明を聞く武田。
武田「花組さんの舞台にカナダライ…なんに使うんだろうなぁ
まさかおとしたりするんかねぇ?」
そういった武田の頭上に落ちてきたタライがヒット!!
いい音がしました。(爆)
―――11日――――――
この日はタライはヒットせずに、頭上に寸止め。
武田がふと上を見ると……タライが!!
武田「うおぅおぉぉぉっ!?!」
いや、結局落ちてこなかったんですけどね。(^^;;
―――――――――――――――
武田にタライがヒットした所で……再び温泉場。
金田とダンディの笑い声
ダンディ「落とすんだ!
あっははははは…!」
盛り上がる二人だが、かえでは一人苦い顔。
かえで「金田先生…カナダライ、却下!!」
金田「いいえ!必要です!!
花組は新派ではありません。いつも新しい新機軸が必要なんでゲスよ!
このご時世、明るい話題が必要なんでゲス!
エノケン・ロッパが浅草で受けているのも、笑いがあるからでゲスよ!」
かえで「ダメです!!」
かえでさんのガンとした一言に金田先生も諦めたのか
金田「しょぼ〜〜ん……」(笑)
でも、話を切り換えて別のお願いへ……
金田「あの、この…沖の僧都って海坊主の役…
ぜひ中島親方にお願いしたいのですが…」
ダンディ「親方って…帝国歌劇団のあのハゲ坊主ですか?」
金田「ええ。あの人は昔役者でした。
いろいろあって、今は大道具の親方ですが……どうでしょう?かえでさん。」
ダンディ「あっしからもお願いします。」
二人で頭を下げる。
かえでさんは二人の熱意に微笑み、承諾する。
かえで「ふふっ…わかりました。」
金田「ああ、あと…もう一つお願いが…」
かえで「まだ何かあるんですか?」
金田「副支配人にも、腰元の役で出ていただきたいのですが……」
かえで「わ、私!?」
金田「ええ、ぜひ!!」
かえで「で、でも私なんか……」
予想もしなかった頼み事。心底驚くかえで。
しかし、ダンディのボスはノリノリで…
ダンディ「かえでさんの舞台姿……見てみたいですなぁ!!」
金田「お願いします!
5周年記念公演に花を添えると思って!!」
沈黙。かえでと金田先生は目を合わせたまま動かない。
(11日は、この視線あわせがやたら長かったです。(^^;;)
視線を外したのはかえでさんでした。
かえで「ふ…ふふふっ…わかりました。
こんな私でよかったら。」
金田「おおっ引き受けてくださいますか!!」
かえで「はい。」
金田「いや〜良かった良かった!」
ダンディのボスと喜び合う金田。
しかし、次のかえでの思いつきに凍る事に……
かえで「そうだ…薔薇組も出しましょう!」
金田「ええっ
ば、薔薇組の皆さんも出すんでゲスか?」
かえで「はい。」
金田「わ、わかりました…
じゃあ、なるべく目立たない役で……」
金田の呟きに、ええっ?と視線を送る。
それをよそに、かえでさんは立ち上がり……
かえで「腰元の役なんて…どうやればいいのかしら?
色っぽい感じかしら?」
と、着物でちょっと踊ってみる。と……
その気配に気づいたのか、じっとかえでを見つめる。
その視線と目が合ったかえでは…
かえで「ちょっ…何見てるんですかっもう!!」
照れながら、背をそむける。
その様子に、金田先生とダンディは笑い出す。
かえでさんもつられて笑う。
さて…出演キャストも決まった所で、温泉場はお終い。
同時進行だった親方のシーンに戻ります。
親方「しかし……このカナダライ、いったいなんにつかうんだろ〜なぁ〜?
………………ま、考えたって仕方ないか!
さぁ〜て!それじゃ行くとしますか。」
よいしょっと、荷車を押して走り出す親方
親方「劇場に〜夢が〜ある〜」
歌いながら下手に退場。
そこにやってくるは西村。なにやら慌てた様子……
西村「ないないないない!!
財布〜確かこの辺りで……」
きょろきょろと琴音に突き飛ばされた(?)あたりを見る。
西村「あー!あった!!」
財布を嬉しそうに拾い上げると、中身を確認。
ちゃんとあった様で満足げ。(^^)
と、西村。また別の何かを発見したようで……
西村「なんだこりゃ?
……お守り?ずいぶん古びてるな〜
ま、でも…これも何かの縁だ。」
財布に挟んで、石段を上がろうとするが…ふと目に入った店先のラムネビン。
……それは置いておいて…西村さん、お守りの類はできれば拾わない方がいいと思いますよ〜(^^;;
西村「ラムネか……そう言えばずいぶんこんなもの飲んで無かったな。」
チリリリ…と中のビー玉を転がす。
西村「すいませーん!ラムネくださーい!」
見せの中に声をかけるが返事はなし。もう一度声をかけるがそれでも返事はなし。
しかたがないので、お足を置いて、栓を抜く。
そんな西村と同じ頃。石段の上では紅蘭がアイリスを探していた。
紅蘭「アイリスちゃーん?もう、どこいってしもたんやろ?アイリスー!?」
外のイスに座り、ラムネを喉に流し込む。
西村「かーっうめぇ!」
すると、後ろから声が…
アイリス「……美味しそうだね。」
ビックリして振り返ると…アイリスがもの欲しそうにラムネビンを見つめていた。
西村「あ…!君…帝国歌劇団のアイリスちゃん!」
アイリス「うん!そうだよ、西村のおじちゃん!」
西村「あ…ははっ
…飲むかい?」
可愛いアイリスに照れたのか、少しぎこちなくラムネを差し出す。
アイリス「うん!!」
無邪気に西村に差し出されたラムネを受け取ろうとするが……
西村「ああ、まって!
新しいのあげるから。」
と、店先にあったラムネをとって、栓をあけてアイリスに手渡す。
アイリス「わぁ〜…ありがとう!!」
イスに座ってラムネを飲むアイリス。
西村もその隣りに座る。
口からラムネを放したアイリスの表情は、すごく涼しそう。
(大余談:よく、ラムネをあんなにごくごく飲めるなぁ……炭酸が飲めない(苦手な)人間には羨ましいやら不思議やら…(^^;;)
チリリリリ……と、ビー玉を転がす。
♪ラムネの歌
ちょっとCDより短縮バージョン。でも、舞台の雰囲気にピッタリの曲で……可愛かったです(^^)
間奏の部分にはセリフあり。
アイリス「ラムネってレモネードのニセモノなんだって。」
西村「へぇ〜〜レモネードの偽物ねぇ…
そういえば、なんでこんなところにいるの?」
アイリス「あのね、お休みなの!」
西村「へぇ〜帝国歌劇団にも休みがあるんだ。」
アイリス「うん。公演が終わって、次の公演の台本がまだ無いから
台本ができるまでちょっとだけお休みなの!
美味しいもの食べたり〜活動写真を見たり〜…
お兄ちゃんと…デートしたり☆」
西村「デートしてんの?」
アイリス「うん。」
西村「はぁ〜……あ!いっけね、薔薇組さんたち待ってんだ!
早く行かねぇと…!!」
アイリス「おじちゃん!!」
ラムネを置いて、慌てて石段を上る西村を呼び止めるアイリス。
アイリス「へへ…ありがとう!」
アイリスの手を振りながらのお礼に、手を小さく振って返し、そのまま西村は走っていく。
再びイスに戻り、曲の最後。
アイリス「♪からころ〜ラ〜ム〜ネ〜
シュワー」
歌が終わる同時に、お守りを探し回っていたさくらが店の前を通る。
さくら「はぁぁ…お守りの事よりも、みんなのお休みを台無しにしちゃった方が気が重いなぁ……」
アイリス「あーさくらぁ!!」
さくらの姿を見たアイリスがさくらに駆け寄る。
さくら「アイリス。」
アイリス「さくら、さくらのお守り絶対絶対見つかるよ!
だってみんなが見つかるって思ってるんだもん!
その思いは通じるんだよ、神様に。」
さくら「…そうね。ふふっ」
アイリス「へへっ……ねぇねぇさくら、こっちきて!」
さくら「ん?なぁに?」
アイリス「ここに座って!」
さっきまで自分が座っていたイスにさくらを座らせる。
そして、さっきまで飲んでいたラムネを渡す。
アイリス「はい、ラムネ!
さくらはここにいてね、アイリス探してくる!」
さくら「え、ええっ?!
でも……」
アイリス「さくらはラムネ飲んでてね〜!!」
さくらの言葉を聞かずに、走っていくアイリス。
残されたさくらは、顔を落とし、俯きながら立ち上がり、ラムネを店に置く
さくら「ダメだな…あたしって……」
自嘲の笑みを浮かべる。
そこに、ちょうちん行列の歌が……
「ちょ〜ちん行〜列よ〜いやさっさ。ちょ〜ちん行〜列よいやさっさ。」
辺りが暗くなる。
すると…………
一馬「さくら。」
さくら「!」
一馬「さくら。」
さくら「お、お父様……!
!お父様…あたし、みんなのお休みを台無しにしちゃって……」
一馬「さくら、お前は賢い子だ。そして、優しい子だ。
だからよくお聞き。
人の好意に甘えてはいけない。
が、その行為を素直に「ありがとう」と言える心も必要なのだ。
お前が心から信じるものを大切にしなさい。」
さくら「はい……お父様…」
肩にある父の手を取り、頬を寄せる。が、探し物の事を思い出して…
さくら「ご、ごめんなさい、お父様…
お父様から貰ったお守り…無くしてしまいました……」
一馬「さくら。
父さんの守りは形にすぎない。
形ある物は、いつか滅びる。
形だけを追い求めていけば、心まで見失う。
まずなにより…人としてどうあるべきかという心を磨くのだ。
父さんは、いつもお前の心の中にいるぞ。」
さくら「あたしの…心の中……」
一馬の言葉に、安心したのか、笑顔を見せる。
一馬「母さんは元気か?」
さくら「はい。お手紙を頂きました。
それから、ずんだもちも。」
母を思い、妻を思い、笑顔を浮かべる。
一馬「母さんはお前が一人前になるのを願っている。
親は、子の未来を願う事しか適わない……」
さくら「感謝しています。」
微笑むさくらに、一馬は申し訳なさそうな声を出す。
一馬「…さくら……私は、お前に父として……」
さくら「いいえ、お父様!
あたしは……真宮寺一馬の娘です!」
力強く、誇りに満ちた声。
一馬「…ありがとうっ…さくら…っ」
また、ちょうちん行列の歌が……
「ちょ〜ちん行〜列よ〜いやさっさ。」
さくら「お父様?」
「ちょ〜ちん行〜列よいやさっさ。」
さくら「お父様?!」
「お盆の行〜列よ〜いやさっさ。」
さくら「おとうさまぁぁーーーーー!!!!」
着物の裾を握りしめ、叫ぶさくら。
周りの光が元に戻る。
そこに、もう一馬はいない。
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