青いライトが海の中を演出する。
下手より、黒笠をかぶった女と、黒潮騎士団に囲まれた龍馬に乗りし顔をふせたる美女一人が姿を見せる。
女が黒笠を外す。

女房「貴女(あなた)、おくたびれでございましょう。
   一息おつきなさいますか。」

美女、女房の声に顔を上げ辺りを見る。

美女「ああ……もし、どなたですか?
   私の身体は足を空に、落ちて落ちて…波に沈んでいるのでしょうか?」

女房「いいえ。お美しい御髪一つ、乱れてはおりません。
   何でお身体が逆さまなど、そんな事がございましょう。」

美女「何時か…何時ですか……
   昨夜か今夜か…前(さき)の世ですか…?
   父の約束で海の中へ捕られていく私が一人
   舵も櫓もない舟に乗せられて…
   私への供養だと
   船の左右に、後先に。私のへの供養だと波のままに揺れる蓮華提灯が流されました。」

女房「水に目がお慣れではありません。
   貴女には道標…また土産にもと思ってこれを……」

女房、手に持っていた提灯を美女の前へ出す。

美女「まぁ、灯りも消えずに……」

女房「燃えた火の消えますのは、油が尽きる、風が吹く陸の事ばかりでございます。
   ご覧遊ばせ、貴女。
   御召し物が濡れましたか?御髪も乱れはいたすまい。」

灯りに照らされて、着物を、結いた髪を触る美女。
美女の身なりは、波に飲み込まれる前と、これほどにも変わってはいない。

美女「最後に一目、故郷の浦にかかる月を…見たいと思いました。
   それきり、底へ引くように船が沈んで…私は波に落ちたのです……
   ですが、ふと見ますと行方にも
   あれあれ…行く手にも。遥か下と思うところに月が一輪…同じ光で見えますもの。」

美女の指し示す方向に、提灯を向ける女房。

女房「おお、あの光は…
   あの光は月ではございません。」

美女「でも貴女、雲が見えます、雪のような。
   空が見えます……そして真っ白な絹糸のような光が……」

女房「その雲は波。空は水。
   そして一輪の月と見えますのは、これから貴女がお出で遊ばす海の御殿でございます。」

美女「そこに参って…私の身体は、どうなってしまうのでしょう…?」

女房「ほほほ…何事も申しますまい。
   ただ御喜ばしい事なのです。
   おめでとう存じます。」

女房の口調に、美女は戸惑うたような声を出す。

美女「あの…舟に流され海の生贄にとられていく……これが嬉しい事なのでしょうか?
   喜ばしい事なのでしょうか?
   ……あそこまでの距離はいかほどに?」

女房「お国で例えるのは難しい……
   そうだ。東海道を十往復、それを三百繰り返し、さらにその三千たびいたしますほどでございますでしょうか。」

美女「そんなに…」

女房「めした龍馬は風よりも早く。
   ただ花の香りの中を、やがてお着きになります。」

女房の言葉に、美女はあたりの香を楽しむ。

美女「塩の香…磯の香り……ほんに、いい香り。
   …ですが、時々ぞっとするような生臭い香りが致しますのは?」

美女が顔を強張らせる。辺りにはふわふわとさ迷う海月がおりまする。

女房「人間の魂が、貴女の慕うのです。
   海月が寄るのであります。」

美女「人の魂を海月と言って?」

黒潮騎士「海に参ります醜い人間の魂は、
     皆、海月となってふわふわさ迷って歩きますのでございます。」


寄る海月を「しっしっ」と追い払う黒潮騎士たち。

♪夜の海月

深い深い海の底へと向かうシーンでこの曲…ピッタリですね!!
すみれさんとレニとさくらの高音の声がなんともいい雰囲気で……
青玉殿で向かう途中の美女の心を表したかのようでした。
曲の途中で龍馬が動き、曲が終わる頃には上手の方へ。

美女「まぁ…お恥ずかしい。」

女房「いえ、貴女が恥ずかしがる事はありません。
   貴女はあの御殿の若様の新奥様でございます。
   もはや、人間ではございません。」

美女「ええ!?」

女房「先を急ぎましょう。」

提灯で先を照らす女房。

黒潮騎士「お急ぎください。
     美しい方を見ると、黒鰐や赤鮫が襲います。」

するすると、先へ進む一同。
黒潮騎士、一人残り辺りを見回し、一同を追う。

再び舞台は青玉殿へ
今か今かと美女を待つ公子。
そこへ、下手の階段より腰元に案内され、緑色の服に帽子で身を包んだ一人のお人が。

腰元(かえで)「こちらでございます。」

腰元(アイリス)「こちらでございます。」

公子「おお、博士。お呼びたてをしました。」

博士、公子の前でゆっくりと礼。

公子「あれを御覧なさい。」

先ほどと同じく、一点の光を指す公子。

公子「漆のような波を行くあの光は、このたび迎える恋しい人なのです。
   けれども、僧都が言うには……」

と、後ろを向いて僧都を見ようとすると左手の椅子でイビキを立てる僧都が。
「まぁ」とくすくすと笑う腰元集。
公子、僧都の傍へより、頭をひと叩き。

僧都「あいたっ」

勢いあまって椅子から転げる僧都。
一同、笑いをこらえず互いに顔を見る。

公子「けれども、この海坊主が言うにはあの姿はかの国の“引き回し”という刑罰に似ていて
   私が迎え入れるのを不祥じゃ忌まわしいと言うのです。
   私はちっとも不祥だとは思わない。忌まわしいとは思わない。
   陸と海。国は違い人情は違えど、そんな刑罰があるとは思えない。
   けれども僧都は「確かに覚えがある」と申すのです。
   博士、本当にそんな刑罰があるのですか?」

博士「そのことは私の記憶にもあります。
   しかし、念のため調べます。
   …辞書をこれへ!!」

腰元「はぁ〜〜い。」(声のみ)

博士の声に、腰元集が大きなる赤茶色の辞書を公子の前へ。

公子「おお!大層立派な書物ですな。」

博士「はい。この書物は……」

♪この書物は

これまた物語にイイカンジでピッタリな曲でした。
これぞ、花組らしい「海神別荘」なシーンって感じです。
歌が始まると、紅蘭は袖から棒を取り出し(よく、塾の先生が使いそうな銀色の伸び縮みする指し棒です)踊る。
その棒で「♪スペイン遠征の折に〜」の部分では親方相手に銃を撃つ真似。それにあわせてアイリスが「ばきゅーん!☆」と声を出す。
ドラの時と同様に、みんなの視線を浴びて口を慌てて押させる。
まぁ、そのまま歌は進んだので何事もなかったのですが……腰元集の踊りが素敵でした。
やっぱり、着物って踊る時の裾の動き(演出)が良いですね!!
紅蘭のやたら跳ねたり、お茶目な動きをして……なんとも可愛い博士です。(^^)

博士「♪この国の微妙なる光に照らしますと
    森羅万象人類の初め、一切の元素
    一つずつ微細なる活字となって
    五色の輝きを放ち
    真っ白なページに自然と染め出されるのであります」

無事に終え、ポーズも決めた後。公子が辞書を覗き込む。

公子「私には何も見えんが…」

博士「恐れながら、それぞれの予備知識がございませんと
   活字がページの上には浮かばないのでございます。」

公子「恥じ入るね。」

博士「いえいえ!若様はご武勇であらせられます。」

公子に手をつけて、礼をする博士。

公子「うむ。
   さ、早く引き回しの事を調べてください。」

博士「御意。」

公子、御座につき、博士の言葉を待つ。
博士、ページの上に浮かび出てきた文章を読み上げる。
(この文章、どうやら浮かび上がっていた文章そのまま(その物語の原作)読んだらしく……参考にしたくともその書物がないので、博士以上に中略させていただきます;;)

博士「入相(夕方)の鐘つく頃
   品かわりたる道芝の辺にして
   その見は浮き煙となりぬ……
   …この女、鈴ヶ森で火あぶりに処せられまするまでを江戸中槍を立てて引き回したとあります。」

公子「わかりました!それは、お七と言う女でしょう。」

公子、揚々と立ち上がる。
その言葉に、博士頷く。

公子「私が大好きな女なんだ!
   御覧なさい。何処に当人が嘆き悲しみましたか?
   人に惜しまれ、哀れがられ女それ自体は大満足で火に焼かれた。
   これの何処が刑罰なのです?
   本当に罰を与えるのならば、平凡に愚図愚図に生きながらせて
   皺だらけの婆にして、その女を終わらせればいいと思う!
   博士如何でしょう!?」

博士、公子の言葉に頷く。

博士「しかし、慎重に答えさせていただきます。
   私には陸の心も人情も、まだいささかもわからないのです。」

公子「…博士にもわからぬのなら、それは誰にもわからないのでしょう。
   しかし、私は…あの姿を少しも不祥とは思わない。」

僧都「やや、若様。
   この僧都、合点いたしましたであります!!」

僧都、公子の傍で頭を肘をつける。
公子、その僧都の様子に頷く。
用が終わりて、博士が帰ろうとすると、舞台が赤く照らされて……

腰元(アイリス)「若様ぁ!」

腰元(かえで)「赤鮫が三百ばかり!」

腰元(織姫)「群れをなして囲んでおります!!」

公子「おのれ、外道!!」

腰元集たち、公子の周りに集まる。
公子、怒りの目で先を見る。

舞台暗転。

下手からスパンコールで全体を包んだ赤いスーツの頭に魚(いや、赤鮫なのでしょうけれど…)をかぶった赤鮫が…

赤鮫「この上品な空気を、ぶち壊〜す!!
   おい!野郎ども!!」

声をかけると、赤鮫が出てきたところから、数人の手下がやる気がなさそ〜なそろわない足取りで出てくる。
(ちなみに、毎度毎度妄想で着るような全身タイツに、腰の辺りには赤鮫の頭と同じく、魚……いや、鮫が。手には三又の赤い槍を持っている。
あ、薔薇組だけ全身タイツの色が赤ではなくてピンクでした。)

赤鮫「元気がないぞ、野郎ども!!!」

赤鮫の活に、力をいれて返事をする。

手下「おおー!!!」

その返事に満足したのか、赤鮫が本題(?)に入る。

赤鮫「よし、じゃあ……歌うぞ。」

……何故に?!(^^;;

♪赤鮫クンいらっしゃい

なんてオバカな歌。(笑)
一言で言ってしまえば、赤鮫を称える歌でしょうか?
歌の最初の手下の部分は「ゲヒ」と言っているのか「下品」といっているのかイマイチわからないのですが…とりあえず「ゲヒ」で通す事にして、歌詞の一部を……

手下「♪ゲヒ、ゲヒ、ゲヒゲヒ
    ゲヒ、ゲヒ、ゲヒゲヒ」

赤鮫「いらっしゃぁ〜〜い」

……さすがだ、赤鮫。(爆)

赤鮫「♪海〜の中〜の掃除人〜〜
    おいらが赤鮫クンだ〜〜〜」

手下「♪ゲヒ、ゲヒ、ゲヒゲヒ」

赤鮫「♪人はおい〜らを
    外〜道というけれど
    これでも〜誇り高き〜〜
    う〜みの王〜者
    赤鮫く〜ん〜だ〜〜〜!!」

最後は手下の奴らに騎馬戦のように担がれて上の方でポーズ!
そのままセリフへ…

赤鮫「あのな」

手下「おおー!!!」

赤鮫「海の世継ぎがな」

手下「おおー!!!」

手下「おおー!!!」

赤鮫「まだ何も言ってなーい!
   降ろせ、降ろせ。」

赤鮫の指示で、親分を降ろす。
喋りだそうとすると子分の一人が赤鮫の目の前にドーンと立つ。
それに気づいたほかの子分(琴音)が慌てて他のみんなも膝をつかせる。
これで、赤鮫が一番背が高い。(笑)

赤鮫「よくわかってるな〜お前。」

手下(琴音)の頭をなでる赤鮫。
そしてやっと本題に。

赤鮫「あのな、海の世継ぎの公子の野郎が、海の別荘、青玉殿に来てるってんだ。
   それも……僅かな手勢でな。
   あんなヤツに後々海をのさばられたら面白くない。
   それなら、今のうちに誰が海の王者か思い知らせてやろうじゃねぇか!
   なぁ、野郎ども!!」

言いながら、手下をおいて下手へ移動していた赤鮫が意気揚揚と振り向くと、やる気な〜くだらけた手下たちが……
赤鮫、慌てて指導。

赤鮫「ここは「おー!」って言う所でしょ。
   「おー!!」って……」

親分の指示を受けて慌てて立ち上がり、声を張る。

手下「おおー!!!」

赤鮫「よぉーし!
   俺たちの強さ、思い知らせてやる!!」

くるりと後ろを向いて語る赤鮫を、おいて行くように手下たちは上手へ向かっていく。

赤鮫「あーっはっはっはっはっは!
   はっはっはっはっはっは
   ……あひゃぁ〜あひゃぁあひゃあ〜〜〜〜…」

いざ行こうとして、手下たちを見ようとしたら…もう一人(笑)
笑い声が途中から泣き声に……

赤鮫「何で、あたしを一人にするの?
   いつも言ってるでしょ。あたしを一人にしないでって…!!
   群れて〜群れて〜あたしの周りに群れてぇ〜〜〜!!!」

言いながら、手下たちを追いかける赤鮫。
ああ……上品の欠片もない方達よ(笑)

そして舞台は混乱の青玉殿へ。
腰元たちを、赤鮫の手下が襲う。逃げ惑う腰元たち。しかし、一人が捕まってしまう。
下手客席前で気絶したまま槍につつかれる。
そこへ、棒を持った僧都と、刀を下げた公子が。

腰元(かえで)「赤鮫どもが暴れております!!」

腰元(織姫)「腰元が一人!」

腰元(アイリス)「さらわれたのでございます!!」

公子「皆、下がっておれ…私が行く。」

じりじりと赤鮫の手下(三人)の下へ行く公子。
その公子の気配に驚いたのか、振り返る手下たち。相手をするが、軽く流される。
そこへ、残りの手下を連れた赤鮫が行進して来る。

赤鮫「いちにっいちにっいちにっいちにっ…
   ぜんた〜〜い…止まれ!!いちにっ!!」

公子と一戦交えていたやからも合流。

赤鮫「やい!公子!!
   おいらは海の王者、赤鮫クンだ!
   ポンポコチン!はい!!」

会場もいれて、手下と一緒に「ポンポコチン!」と。
腹を二回叩いてポーズ。

赤鮫「お前ばっかりいい女をはべらせて…ずるぅ〜〜い!ずるぅ〜〜い!!
   ご一緒に。
   ずるぅ〜〜い!ずるぅ〜〜い!!」

……しまった、乗ってしまった。(爆)

赤鮫「少し、ぅわけて〜〜ぅわけて〜〜〜」

赤鮫・手下「わけて〜〜〜わけて〜〜〜〜」

公子「…言いたい事はそれだけか?」

そんな赤鮫のペースに乗らず、鋭く一言。

赤鮫「かっこいい……
   ものども!かかれぃ!!!」

赤鮫の声で戦闘開始!!
僧都と公子の赤鮫との戦いを階段の上で見ていた腰元三人のうち一人(織姫)が上手階段に、タライを持って移動。
真下に手下(琴音)がきた時に落し……見事命中!
他の二人を見てガッツポーズを取る腰元(織姫)
腰元(織姫)が元のように合流すると、公子が一言。

公子「おのれ外道!!
   この宮殿より去れ!!!!」

と、刀を高く掲げると、雷鳴と共に煙が!
手下たちは、その力にちりじりになり、舞台から外れていく。残ったのは落ちてきたタライを持った赤鮫のみ。
取り残された事に気づいた赤鮫は、公子の前で……

赤鮫「え、え〜〜っと……あ!そうだ
   …っと…
   赤鮫の…ギョーズイ(行水)」

と、タライに入って真似をする。

赤鮫「いやだぁ〜〜鮫肌でぇ〜〜〜…」

それでも、公子は眉一つ動かさない。
赤鮫は次のネタに…タライを持ってちまちま歩く。

赤鮫「よちよち…よちよち……
   あんよは、ジョーズ(上手)!」

やはり、顔一つ変えない公子。一歩ダンッと足を踏み出すと、赤鮫慌てて逃げ出す。

赤鮫「うわぁあぁぁぁぁ〜〜〜!!!ご、ごめんなさ〜〜い!!!」

赤鮫も撤退した後、ようやく公子が笑う。

腰元(織姫)「あれあれ、赤鮫が!」

腰元(アイリス)「若様のご威光を恐れて逃げていきまする!」

笑顔で公子の横につき、赤鮫の逃げる背中を追う腰元たち。
そこへ、別の腰元がやって来て、何かを告げる

腰元(かえで)「おいでになられました。」

公子「おお。」

僧都「では、私がお出迎えに……」

僧都、上手の方へ走る。
それと入れ違いに、黒潮騎士団が公子の下へ。

黒潮騎士「若様。」

公子「おお、戻ったか。」

黒潮騎士「先ほど赤鮫が…」

公子「なんでもない。
   ?…僧都はどうした?出向いたであろう。」

黒潮騎士「はっ
     あとの仲間を率いて、赤鮫を追いかけたでございます。」

公子「そうか。戦闘は見ものであろう。
   皆はご苦労であった。休んで良いぞ。」

黒潮騎士「はっ」

来た方向とは、ちょうど一直線の、下手へ引く。
公子、御座につき、美女の到着を待つ。


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