物悲しい曲が流れて舞台は再び言問橋の袂、向島三丁目へ。
下手から優作、上手から西村がやってきます。お互いを認めた瞬間、舞台に緊張が走ります。
ゆっくりと二人が近づき、交差したとき…背中合わせのままの優作の言葉が双方の足を止めます。

優作「…霧笛がテメェを呼んでるぜ。
    海のもずくになりなぁ!!」

西村「…もくず!!」

優作「もくっ…この野郎!!」

言うが早いか、手にしたドスで西村に切りかかる!!
が。西村は冷静にそれをかわすと、相手の勢いを利用して反撃!
ドスを握った手をしっかりとつかんで身動きが取れないようにします。

優作「さすがは腐ってもダンディ団の若頭だな…!」

西村「ある事ない事言いふらしやがって!」

優作「てめぇのボスに意気地がないのが悪いんだろう!!」

西村「野郎っ」

西村の怒りが、一瞬の隙を生み、その間に西村の手から逃れた優作は落ちた帽子を拾うことなく下手側でドスを構えなおします。
対する西村は動きやすいように上着を脱ぎ捨て上手側で間合いを取ります。

優作「俺が獲物を抜いたとき、そこが地獄の一丁目だ。
    二丁目はねぇ!!」

西村「ここは三丁目だ!!」

うまい!!確かにここは「向島三丁目」だ!!こういう掛け合い大好きです!(笑)
「ホントだ…!」とつぶやきつつもドスを振り下ろす優作!その刃をかわしつつ、下手へと抜け膝をつく西村ですが…その頬には一筋の赤いものが…それを己の手で触れて確かめる西村。

西村「…上等だコラ。(立ち上がって優作の前に両手を広げる)
   さぁ来い意気地なし。さぁ、突いてみろ!!」

迫力のある言葉に、一瞬のまれそうになる優作ですが、声を上げながら無防備な西村に突きかかります!!
が、見事にその腕を取られてしまい逆に鈍い音を立てさせられてしまいます。思わずドスを落とす優作。
二人が離れると、優作のドスを持っていた手が不自然に揺れています。

優作「…なんじゃあこりゃあぁ!!」

お約束!(笑)
あーあ、折られてしまいましたね;;
屈辱に膝を突く優作に後ろから近づき、拾ったドスを喉元に突きつける西村。

優作「っ…勘弁してくれ……!」

西村「いいか。今度ボスの悪口こきやがったら
   二度とその口で物食えないようにしてやるぞ!!わかったか!」

優作「…わ、わかった……」

西村「(投げ出すように肩を押して、ドスを投げる)…行け。
   金輪際、銀座をうろつくんじゃねぇぞ!」

堂々と言い放つ西村を横目で見つつ、ドスを拾い折れた腕を押さえつつ上手へと足を踏み出す優作ですが

西村「優作!」

優作「ああ!?」

西村「…忘れもんだ。」

西村に声をかけられて乱暴に振り返る優作。西村から投げられたのは、自身の帽子。

優作「…いつかきっと命取りになるぜ。
    あんたたちのその、ダンディズムとやらがさぁ!」

……優作、折れた方の手でかっこよくドスの先を向けて言おうと思ったのに、骨折したては振り子のように揺れてギャグにしかなってませんよ!(爆)
まぁ、それでも笑いながら上手へと去っていきましたが…優作も転んではただでは起きないタイプでしょうか?

西村「…………………」

しばらく優作の去ったほうを見ていた西村ですが、無言で投げ捨てた上着を拾って羽織ります。
その、何かが漂う後姿にさびしげなBGMがさらに拍車をかけていたのですが…

カンナ「いや〜遅くなった!悪い悪い」

レニ「すいません、遅くなりました。」

下手から明るい声とともにカンナ(冬服)そしてレニ(白いマフラーと手袋着…アイリスとおそろいの冬使用?)がやってきました。

西村「あ、いや、僕も今来たところだから!」

どうやらこの二人は待ち合わせをしていたみたいですね。
それにしても、西村さん…優作と対峙しているときとはまるで表情が違いますね。

カンナ「(西村の顔を見て)…あれ?
    どうしたんだお前、血が出てるぞ…」

西村「あ、出かけに髭剃ったから、剃刀でちょっと…」

カンナ「剃刀の傷にしちゃ、ずいぶん深くないか?」

心配そうに顔を覗き込むカンナの目を避けるように傷を手で隠しながら顔を横に向ける西村。
まさかつい先ほどまでここで喧嘩してたなんて言えませんものね。

レニ「ボク、絆創膏持ってるよ。」

カンナ「お、でかしたな!」

レニ「(手袋をはずして、ポケットに手を入れる)カンナの口ふさぐために持っときって紅蘭がくれたんだ!」

レニ、口調に悪気が微塵も感じられません!(笑)

カンナ「な、なんで…?」

レニ「さぁ?…うるさいからかな?食べ過ぎちゃうからかな?
   カンナはどっちがいい?」

カンナ「…食べ過ぎちゃうから?」

レニ「じゃあそっち!」

悪気は微塵も感じられませんが、実は天然で黒いですか?(爆)
なんとなく納得がいかないカンナがしきりに首を傾げていますが、そんなことは気にも留めず絆創膏を手に西村に近づくレニ。
遠慮する西村を「いいから」と説き伏せて頬に絆創膏をぺたり。

レニ「はい。(あはっと笑って)かわいい!
   (ポケットから鏡を取り出して)ほら、こんな感じ。」

この絆創膏が、なぜか昨年の夏に大立ち回りを繰り広げたニコニコ石鹸工場のシンボルマークの形をしていて、確かにかわいい絆創膏なんですよ。
なんですが…本当に何故そんな絆創膏を??(^^;;

自分の頬を鏡で見た西村は(なぜか)髪を書き上げるしぐさをして、相変わらず下手側に居るカンナに近づきます。

西村「どうですか?」

カンナ「こわ〜い!……くらいかわいい!」

しっかりオチを入れたカンナ。三人でひとしきり笑ったところで、レニが話を戻すようにつぶやきました。

レニ「だけど、うまくいくかなぁ〜…」

カンナ「なーに言ってんだよ、うまくいくに決まってるだろ!
    だって、みんな辞めさせたくないんだろ?」

レニ「うん、責任感じてる…」

カンナ「だろ。だからみんなで知恵を出し合ったんだろ!
    そこにあたいがさらに強力なカンフル剤を注入したってことよ!」

レニ「…ねぇ。この事みんな知ってるの?」

カンナ「いや。敵を欺くには、まず味方からって言うだろ。」

レニ「…はっはっは…知らないんだ。
   不安倍増…!;;」

レニも、カンナの性情はしっかり理解してますね;;
得意顔のカンナとレニの表情がどんどん反比例していきます。

西村「カンフル剤ってなんですか?」

カンナ「ま、強力な毒。と、今は言っておこうか。」

ふっふっふ…と得意げなカンナですが、毒と聞いた西村は驚き、レニは不安を隠そうともしませんよ。(^^;;

カンナ「ふっふっふ…南風!南風!GOGOGO〜!」

レニ「……行きましょうか。道々お話します…」

浮かれた足取りで上手へとさっさと進むカンナの背中で、レニは西村を見やるととぼとぼと歩き出しました。

西村「南風、南風って…カンナさんご機嫌ですねぇ」

レニ「ボクは北風ぴゅーぴゅーって感じです…」

西村の台詞は「カンナさんルンルンですねぇ」というのもあったそうです。
三人の姿が完全に上手へと消えると「向島三丁目」と書かれた塀の一部が動き出しました!!
な、なんか塀が長くなってると思ったのは気のせいじゃなかったんですね!
塀がくるりと回転すると、そこに居たのは塀のハリボテを背負った川岡刑事!
あ、ちゃんと手に犬が居ますね。しかもご丁寧にリードまでついて…もう川岡刑事の飼い犬決定ですね。

川岡「はっはっはっはっは!!
    毒だとぅ…!?よーし、先回りだ!!」

意気揚々と上手へと走っていく川岡刑事。うーん、空回りしつつも真相に近いところに行っちゃうってのは、ある意味すごいですね。
「南風GOGO」の曲が流れる中、暗転。場面転換。
再び親方の家となりましたが…布団をかぶって真ん中に肩身が狭そうに座っている武田を囲む花組(下手側からアイリス、紅蘭、さくら、マリア、織姫、かえで)の面々という、あんまりよろしくない状況のよう。
……ってことはやっぱり。そろそろ話の種がわかってきましたね。

マリア「バカじゃないの!?」(思わず立ち上がる)

さくら「マリアさん…」

マリア「なんで!?…なんでフグの毒にあたらなきゃならないの!!?」

武田「でも、カンナさんがカンフル剤だって…なんか、強烈な事件があったほうがいいからって!」

マリア「カンフル剤って……!!」

怒声を響かせていたマリアさんですが、おずおずと言った武田の発言に額に手を当ててあきれてしまいます。
と、ああ!玄関の外で川岡刑事が盗み聞きしてます!!

織姫「だからって、なんでこうなるですかー!!
   あんたなんか一生寝てるがいいでーーす!!
   (武田のそばまでやってきて)いや、むしろ死ね!
   (武田の手ぬぐいを奪い取って首に当てる)ここで今すぐしねぇ〜!!」

完全に切れている織姫に、アイリスが「そうだ〜ジャンポールやれ〜〜!!」とジャンポールの両手で武田の頭をぽかすか叩き、花組みの面々があきれつつも止めようとしたところ。
声だけを聞いて息を呑んだ川岡刑事が犬を玄関の脇に置き、懐から銃を取り出して突入してきました!!

川岡「動くな!現行犯逮捕ーー!!」

花組「うわぁあっ!?」

突然の乱入者に驚いた花組は、慌てて武田に布団をかぶって寝かせ、部屋の奥へと飛びのきます。(かえでさんの位置はさほど変わってませんが、織姫は勢いに乗って台所の方まで行ってしまいました。)
が、その音声だけを聞いて誤解に誤解を重ねた川岡が見たのは布団をかぶせられた武田!

川岡「…遅かったか!
   (布団の端をめくって顔を確認する)うっわビビッた!マジビビッた!
   (縁側に降りて)俺死体とか駄目なんだよね〜」

マリア「川岡さん。」

川岡「動くな!」

マリア「…銃おろしてくださいよ。」

誤解を確信としている川岡刑事は強気。これは何を言っても駄目だろうと思ったのか、花組は低姿勢で応じ始めます。

川岡「……いいか、抵抗するなよ!
   (銃をしまう川岡、手を下ろす花組)爆発物を持ってるだろ!」

アイリス「爆発なら紅蘭が…」

川岡「紅蘭!?」

しまったっ!と口をふさぐアイリスですが、時すでに遅し。
川岡刑事は全員を人にらみして確認に入ります。

川岡「お前か?」
かえで「かえで。」
川岡「(縁側を進みながら)お前か?」
マリア「マリア。」
川岡「お前か?」
アイリス「アイリス…」
川岡「お前は桃栗小僧!」
さくら「さくら!」
川岡「お前か?」
紅蘭「(笑顔で)はいな。」

紅蘭を見つけた川岡刑事。「ふっふっふ…」と笑いながら、さらに一歩二歩。

川岡「お前だ!」
織姫「だから、こっちだって言ってるでしょー!!」

と、織姫が改めて紅蘭を指し示しました。(笑)
川岡刑事、カッコよく決めたくても常に三の線になってしまうのは性質からか?

川岡「(紅蘭を見て)爆発物を持ってるだろう!」

紅蘭「そないなもん持ってまへん。」

そうですね“爆発物”は持ってませんね。“爆発の恐れがある物”はときどき持ってますが。(滅)

川岡「本当か?身体検査ー!」

紅蘭危うし!?思わず自身を抱きしめるように両手を交差させて一歩二歩後ずさります。
川岡刑事が紅蘭を掴もうと一歩足を踏み出したとき、台所に立っていた織姫が『乙女にいきなり何するですかー!!』とばかりに近くにあった銀色の缶の蓋で川岡の頭を強打!
さすがに怯む川岡ですが、頭を抑えてふらふらと舞台真ん中まで進みつつも今回は強気の態度を崩しません!

川岡「はい、公務執行妨害。及び殺人。」

かえで「川岡さん、これは…」

川岡「うるさい!今回は言い逃れできないぞ!
   なんてったってここに、死体があるんだからな!!」

近くにいたかえでさんが事情を説明しようと口を開きますが、川岡刑事はびしっと横たわったままの武田を指差します。
これ以上騒がれるわけにはいかないわ!とばかりにかえでさんが立ち上がると、舞台上手から黒子さんが三味線を持って登場。ベベン!と一鳴らしすると舞台が暗くなり、かえでさんにスポットが。

かえで「巡査(けいじ)の帳面に、名を並べて、女房と名告つて一所に
     詣でる西川岸の、お地蔵様が縁結び。
     これで出来なきゃ、日本は暗夜(やみ)だわ。」

さくら「よっ稲葉屋のお父さん!」

紅蘭「泉鏡花や!」

かえでさんが流暢に、優雅に語ったこの台詞は、泉鏡花の「日本橋」という話に出てくるものだそうです。(あ、黒子さんは出番が終わった後、静かに上手へと帰っていきました。)
発表が(こちらの)大正3年らしいので、ちょうどはやりだったのかもしれませんね。
が、演劇系の話題に疎い川岡は「なにが泉鏡花だ。大体な―――」と縁側に腰掛けてしまいます。と、そこへお決まりのおどろおどろしい曲が流れて…

武田「(ゆっくりと起き上がって)うらめしや〜……
    世界は闇だぁ〜〜…!!」

川岡の背後に立ち上がります!!(笑)

川岡「ぎゃあぁ!!おばけ〜〜〜!!!」

驚いた川岡刑事は……立ち上がって、やたらゆっくりと庭に眠るように倒れました。

花組「…………………」

武田が庭に下りて川岡の顔の前で手を振りますが、反応は無し。
川岡刑事を覗き込んでいた花組の面々もその様子を見て…

マリア「…完全に気を失ってるわ。」

はぁやれやれ…と息を吐きながら居間の中に散っていく花組の面々。
武田はまだ庭で川岡刑事の周りをうろうろ。

織姫「もう、今日はハプニングばっかりですねー!」

さくら「きゃあああああっ!!」

台所の柱に寄りかかりながら織姫が心の底から叫ぶと、ハプニングの極め付けを見つけたさくらさんが絶叫!

さくら「大神さんが隠れてます!!」

花組「えええええ!?」

そう、今の今までその存在を台所の隅ですだれを駆使して隠してきた大神さんですが、ついに見つかってしまいました!!
……今までの中で大神さんの様子がすっぱり抜けてるのは、隠れてたからです!決して、見てなかったわけではないです!!(爆)

マリア「支配人見習い…!どうしてここに!?」

あ、武田がいるから「支配人見習い」なんですね。
で、その支配人見習いこと大神一郎は、驚いたみんなの視線を一身に受けようやくやってきた出番に台所から前に出てきて一言。

大神「…体が、勝手に…」

それですかーい!(笑)
いや、いやいや言いえて妙といえば妙なのですが!思わずこける花組の面々。

紅蘭「冗談は置いといて!
   なんで隠れてたん?!」

大神「だって…かえでさんが(すだれを持ったまま居間に上がる)
   大神君は、風邪で寝込んでるって言うから…」

あ…!
しまった…と目をそらすかえでさんに、花組の視線が突き刺さります。

マリア「かえでさん?」

かえで「……アドリブ!」

そんなにこやかにかわいらしく言っても駄目です!(^^;;
さっきからやっちゃった感が漂う花組ですが、これもかなりダメージが大きかったみたいで「あぁ〜…」と落胆の声を上げてます。

紅蘭「もう、どないするんや〜」

さくら「大神さんの出番、なくなっちゃったじゃないですか;;」

そうですね、さくらさん;;

アイリス「ねぇ、これからどうなるの?」

かえで「そうね〜…ま、なるようになるでしょ!」

あれ、かえでさん早くも開き直りましたか?(汗)
と、そこへ下手からボスの声が!!

ボス「駄目だぁ〜〜!!」

慌てたのは花組や武田たち!気絶している川岡刑事をほったらかして、状態を元に戻そうとてんやわんや。
大神さんは小部屋に押し込まれ、武田は元の位置に戻って横になろうとしますが…ボスが現れてタイムアップ!
布団を引っぺがしたような、へんなポーズで止まってしまいました;;

ボス「駄目なんでぇ、医者はどこも休みで…」

一方、下手の方で肩で息をしながら落胆の言葉をつむぐボス。
ですが、ふと親方宅の居間を見て疑問が顔中に広がります。

ボス「武田?どうしたんだ、こりゃ…」

妙なポーズで止まってしまっている武田を不思議がるボス。まぁ、無理もないですが…
そこに、フォロー(?)に入ったのは現在武田の隣に立っていた紅蘭!
武田の肩をがしっと掴んで、布団を右隣にいたかえでさんに渡し…

紅蘭「死後、硬直です!!」

ってそりゃフォローか!?フォローなのか??!(爆)

ボス「し、死後硬直って、武田死んじまったのかよ!?」

紅蘭「はい!
    (武田をまっすぐに立たせて)完全に、死んでます!!」

かえで「さ!寝かせましょう!!」

間髪いれずに布団を差し出すかえでさん。それを受け取った織姫が「南無阿弥陀仏ー南無阿弥陀ー」と唱えながら布団をかけ、顔にはマリアがちゃぶ台から拝借したふきんがかぶせられ、とどめはかえでさんの合掌しながらの「南無観世音菩薩ー」に、さくらさんのおわんをチーン!と叩く音。
三蔵法師と観世音菩薩に経を上げてもらえるとは贅沢な…
と、種がわかってるこちらとしては見てしまうんですが、ボスは本気で武田が死んでいると思ってるので、縁側にすがって嘆いてます。

ボス「武田〜!
   (寝転んでいる川岡刑事に気づく)…あれ?誰ですか、こいつ。」

しまった…!先ほどから何度使ってるかわからないこの表現ですが、花組的には本当にそれの連続で…
倒れてる川岡刑事を指して新たに疑問を浮かべるボスに、かえでさんが咳払いをひとつして、マリアの隣に座ります。

かえで「……誰だっけ?」

マリア「…私!?」

潜めた声で振られた役割に声が裏返るマリア。他の面々の方を見ますが、全員いい動きでそっぽを向いて責任拒否してます。(笑)

織姫「誰っ!?」

仕方なしにマリアが立ち上がると、前に出て一言。

マリア「……親戚の方です。」

親戚かい!とばかりにこける花組の面々ですが、ボスは怪訝そうな顔。

ボス「親戚?
   …武田に親戚はいませんよ。」

マリア「!?…い、いやぁだ
     誰が武田さんの親戚だって言いました?親方の親戚。」

ボス「ああ、親方の…でも、何でこんなところに寝てるんですか?」

マリア「そ、それは…」

さくら「夜汽車にずっと乗ってきたんですって!」

花組「そうそう!!」

かえで「ずっと立って!」

花組「そう!!」

アドリブをアドリブでつなぎ、何とか話を成立させました!引きつったような笑いを浮かべながらボスの様子を伺いますが、ボスはこの説明で納得した様子。

ボス「はぁ〜そりゃお疲れだ。」

と、そこへ上手から親方が戻ってきました!

親方「すいません、医者はどこも休みで…!
   で、この毒消し買って来ました!!
   (横たわってる川岡刑事に気づく)あれ?川岡刑事さんがなんでここに?」

ボス「刑事?!
   警察の方なんですか?」

マリア「い、いやだわダンディさん!」

川岡に対するフォローはマリアさんが担当?(^^;;
絶句して目線を泳がせる親方たちを横切って、川岡刑事のそばまで行くと、しゃがんで川岡の顔をボスに向けます。

マリア「こーんな間抜け面な刑事さん、いるわけないじゃないですか。」

あ、ひど。(笑)
それがあんまりだったからかは知りませんが9日・夜に見たら「こーんなイケメンな刑事さん」に変わってました。これ以後、ずっとイケメンでした。一瞬、気絶したはずの川岡刑事の顔がニヤリと笑ったのが印象的でした。

マリア「名前、川岡けい…じろう君!
    親方の親戚!ね、親方。」

川岡刑事を元のように寝かせると、マリアは立ち上がって「親方、親方。」と事情が飲み込みきれてなかった親方に必死で目配せ。瞬きの勢いでウインクしてます。(笑)
その必死さに親方も気づき、話を合わせます。

親方「お、あ!けいじろう!!
    なんだ、けいじろうイキナリ来て〜!
    話をややこしくしやがって!!」

最後の台詞は本音ですね。(汗)
抱きしめてるようで、首締め上げてます。(爆)
部屋に戻ったマリアはなんとなく疲れた顔してますし…ちなみに、ボスはちょっと心に引っかかりを感じてるようですが首を傾げるだけでとどめてます。それよりも、重大な事が今のボスの心を支配してますからね。

ボス「親方…武田が、死んじまいました……!」

親方「ええ、そうですね。」

マリア「…親方、驚いて!」

親方「え?あっ(川岡刑事を軽く投げ出して、武田にすがる)
   武田さ〜〜ん!駄目だよ死んじゃぁぁ〜〜!!」

わざとらしく(?)家に上がって嘆く親方。
と、そこへこのややこしい事態を引き起こした張本人と言うべき人が親方宅に到着!

カンナ「いやーお待たせ!
    (玄関に入って、靴を脱ぎながら)どうかね〜、親方は辞めるのをやめる気になったかね〜
    ダンディの説得は、うまくいったかね〜?」

さくら「カ、カンナさん!」

周りのみんなは背中に氷塊が流れた気分になったことでしょうが、当のカンナは意気揚々と上がりこんできます。
(ちなみに、親方宅の現在の立ち位置は台所の前部分にボス。居間の台所側から織姫、さくら、アイリス、紅蘭、マリア、かえで、親方です。武田は寝かされているので動かず。)
遅れてきたレニと西村はまだ玄関に立っているんですが、二人が上がりこむ前にカンナが川岡刑事を見つけてしまいます。

カンナ「あれ?なんでこいつがこんなところにいるんだ?」

マリア「カンナ、これには訳があって…!」

カンナ「だぁーってこいつはシナリオには…」

ボス「シナリオ?」

マリアの抑えてもらいたい気持ちを汲むことなく、爆弾発言を投下してしまうカンナ!!

さくら「しぃ〜〜〜なの夜〜〜〜」

織姫「リオデジャネイロ!!」

さくら「しぃ〜なのよるぅ〜〜」

織姫「リオデジャネイロ!!!」

ボスの気をそらすために突然声を上げるさくらと織姫!さくらさんはやわらかい動きで、織姫はサンバのリズムでそれぞれの特徴を示してます。(余談ですが、このとき玄関のレニが二人の動きを後追いで真似てました。おとそも飲んでないのに。(笑))支那とリオデジャネイロで…

さくら「しな!」

織姫「リオ!
   …デジャネイロぉ〜〜〜;;;」

さすがに、これは本人たちもボロボロだというのは自覚の上だったようで、その場でくず折れてしまいました;;

カンナ「なんだそりゃ。お前らちゃんとやったのかよ!」

さくら「カンナさんがカンフル剤なんてやるからですよ!」

カンナ「ああ!武田がフグ食って死ぬってやつな。あれ…」

レニ「カンナ!!」

急いで親方宅に上がったレニが、むんずと掴んでカンナの鼻先に突きつけたのはカンナが履いていたブーツ!
油断していたカンナはそのにおいを思いっきりかいでしまい…

カンナ「あふぅ…!」

倒れました。(笑)
対する、絆創膏ではなくにおいでカンナの口をふさいだレニは柱に顔を寄せて一言。

レニ「不安的中…!;;」

もう、ボロボロなエチュードになってますが、ここでテイク2!と言わんばかりに西村がつなぎます!

西村「武田!!(靴を脱ぎ捨てて居間にあがる)
    馬鹿野郎、フグ食って死ぬなんてよぉ〜〜!!」

親方「やっぱり鍋じゃなくて七草粥にしておけばよかった!
    武田さんが、お世話になった皆さんにどうしても食べさせたいと言う
    その気持ちが!その優しさが!止められなかったぁ〜〜〜!!!」

おーいおいおい…そんな効果音が合いそうなくらい、泣きまねをする面々ですが
もう、すっかりショックも何もかもが冷めたボスが、静かに言います。

ボス「…みなさん。そろそろこのお芝居、終わりにしませんか。」

さくら「ええー、お芝居ってなんのことですかー…?」

上半身の重心を後ろに傾けて、のけぞるさくらさんが、苦笑い気味に取り繕いますが…

ボス「武田!起きろっ!!」

武田「へいっ!!」

ボスの本気の声に、武田が反射的に飛び起きました!!
…身に染み付いてるんですね;;
飛び起きた勢いで居間の左奥、西村の隣に下がってしまう武田。

カンナ「あ、た、武田が甦った!ばんざーい!」

居間の真ん中に出てきて、一人で手を上げて喜ぶカンナですが、もう周りの空気は冷えて冷えて…

ボス「これは、お芝居なんでしょ。カンナさん!」

カンナ「ど、どうかな〜…マリア?」

ボスに確信をこめられた声で真っ直ぐに見つめられ、いたたまれないカンナはそろそろとマリアの方へ顔を向けます。が。

マリア「バーーンッ!!」

指で作った銃と声に撃ち抜かれたカンナは、先ほど気絶した川岡刑事と同じ動きで気絶します。(汗)
本当に、カンナが止めをさしてくれましたねぇ;;

ボス「皆さんも人が悪い。正月早々あっしをからかって遊ぼうって魂胆ですか?
   西村、武田!お前たちもグルになりがやって…!」

西村、武田「……(一歩前に出て、土下座)すいませんでした!!」

レニ「ごめんなさい!違うの!そうじゃないの!」

ボスの感情を抑えた声に、たまらず玄関から飛び出したレニが反論。

レニ「これは遊びじゃないの!
   ボスのことをからかう気なんて少しも無いの!
   ボクたち、ボスのことが心配で…!!」

ボス「心配?皆さんに心配してもらうようなことは、一つもありませんよ。」

マリア「そう?」

ボス「ええ!」

かえで「そうかしら?(立ち上がって、武田と西村の間に立つ)
     ダンディさんが組を解散しちゃうって、西村さんも武田さんも悲痛な顔してたわよ…」

かえでさんの言葉を聞いたとき、それまでのボスの表情が翳り、言葉を詰まらせてしまいました。
顔をうつむかせて、花組から顔を背けます…

レニ「組を解散するって、ボクたちのせいでしょ…?」

さくら「あたしを助けるために、裏社会の掟を破ったって聞きました…」

ボス「……………………」

マリア「だから(親方の後ろに立ち、そっと肩に手を置く)親方が辞めるって筋書き考えて
    その親方をダンディさんに説得してもらえば、ダンディさんの気持ちも変わるんじゃないかと考えて…」

レニ「だから、みんなで相談して、こんなお芝居を…」

織姫「ちょっと、予定外のことが多すぎましたけど…」

なるほど、そういうことだったんですか。
花組の真意がわかったボスですが、表情や態度は変わりません。

紅蘭「…ギャング団が解散する、そりゃええことや!
   けど、ダンディ団は違うんや!」

アイリス「(立ち上がって)ギャングって言っても、ぜんぜんギャングらしいことしてないもん!」

織姫「ヤン太郎さんもベロも、ダンディさんが拾わなければもっと悪い道に進んでたかもしれないでしょ!
   (「へい…」とうなずく二人)社会って、そういう受け皿も必要じゃないんですか?」

ボス「あっしは…」

かえで「みんな、ダンディさんのことが好きなのよ。」

ボス「あっしみたいな古い人間……」

織姫「案外。自分の価値は自分が一番わかってないかもしれませんね。」

さくら「ダンディさんの、義理とか人情を貫く姿勢。好きだな…!」

もう、ここまできたら直球勝負しかない。と、花組の面々は思い思いにボスに対する気持ちを伝えていきます。
ボスがさくらの方を見たとき、アイリスが立ち上がります。

アイリス「やめないよね、西村のおじちゃんも武田のおじちゃんも悲しいって!
     (縁側を降りて、ボスのすぐ隣へ)ボスは、みんなを幸せにするんでしょ…
     (ボスの手をとって)だからボスなんでしょ!」

ボス「アイリスちゃん…」

紅蘭「…ダンディ団が無くなったら、寂しいもんなぁ!」

さくら「ダンディ団、やめないですよね…?」

本当に、花組全員が同じ思いを抱えてボスを見つめています。
どうか、言ってほしい。

ボス「…………はい。」

待っていた、その言葉を。望んでいた、その言葉を。
たった一言ですが、その場にいた人たちを笑顔にさせるには十分すぎるほどの力を持っていました。

西村、武田「ボスーーーーっ!!!!」

ぱぁっと明るくなった雰囲気に、武田と西村はたまらずボスに抱きつき、むせび泣きます。
花組も、肩をなでおろして心から笑顔を見せ、アイリス、レニ(入る際に川岡刑事の犬に気づき一なでしてから来たのが印象的でした。レニは犬好きですよね。)も入ってきた親方宅の居間で安堵を交し合います。

ボス「みなさん、あっしらみたいな奴らのために
   お芝居までうってくれて、本当にありがとうございます!!」

西村、武田「ありがとうございました!!!」

改めて、正座でお礼を言う三人に花組は“そんな、いいんです”と笑顔を見せます。
なんとなく、ボスが涙ぐんでいるようにも見えます。男泣きですね…

ボス「ほ、ほら早く鍋の準備しねぇか!」

武田「は、はい!(立ち上がる)
   み、みなさん鍋いかがっすか?」

居間に戻ってきた武田は、そのままにされていた鍋を進めますが、その鍋は…

さくら「フグでしょ…!?」

武田「これタラなんですよ!」

なぁ〜んだ!と安堵の声とともに全員が煮えた鍋の周りに集まって、和気藹々という言葉通りの雰囲気に入っていきます。

さくら「ああああ!!」

が、さくらさんの叫び声がそれを一時止めさせます!

さくら「…大神さん忘れてました。」

ああ!!(爆)

さくら「大神さん!」

大神「…(扉を開けて)思い出してくれて、ありがとう!」

いや、隊長…ここまできれいさっぱり忘れられることになろうとは。(汗)
これで本当に鍋をつついて和気藹々―――

ボス「それにしても、いや皆さん迫真の演技でしたね。すっかり、騙されましたよ。」

さくら「こわかったでしょ?」

ボス「はは…はい。」

カンナ「こいつ(織姫)さ、演技じゃねぇんだよ。」

織姫「頭って、ハゲのことじゃないんですかー?」(笑)

川岡「ううん……こ、ここは…?」

あ、最後の問題点(?)がまだ残ってました!!
気がついた川岡刑事があたりを見回します。意識がはっきりした次の瞬間、弾かれたように立ち上がると居間をびしっと指差します。

川岡「そうだ!現行犯逮捕ー…ってあれ?死体が歩いてる!?」

武田「…世界はヤミ鍋ぇ〜〜!!」

具をよそった小皿と箸を持ち、その中から武田が取って見せたのは、なんと黒い足袋!!(爆)
その鍋、本気でヤミ鍋なんですかタラも入ってるけど、他にいったい何が入ってるの!?(汗)

川岡「あ、あれ?」

カンナ「川岡、お前疲れてるんだよ。悪い夢でも見たんだな。
    (川岡を縁側に呼んで)ほら、鍋食えよ。」

川岡「…お腹は、空いてました。」

カンナ「へへっ…だろ?」

和やかな雰囲気にうまく川岡刑事を包みましたね、カンナ。(^^)
おいしそうに鍋を食べる川岡刑事も加わって、これで本当に和気藹々のめでたしめでたし。ですね。

かえで「ね、みんな。改めて、ご挨拶しましょ。」

かえでさんの号令で、全員がきれいにこちらを向き、床に手をつきます。(外にいる川岡刑事だけは立ち上がって姿勢を正します)

かえで「あけまして…」
全員「おめでとうございます!」
かえで「本年も…」
全員「よろしくお願いします!」

礼!新年のご挨拶は、やっぱり欠かせないのですね。こちらこそ、よろしくお願いします!
と、そんな空気に家財道具も当てられたのか冒頭から沈黙していたラジオが雑音を立てながら復活!!

親方、武田、大神「ああー!直ったぁー!!」

ラジヲの前で様子を見ている紅蘭にいや、これ壊れたたんですよ〜と言う親方とかぶるように、ラジヲから男性パーソナリティーの声が流れてきます

ラジヲ「―――夕暮れ歌謡ショウの時間です。
    本日は、うららかなよい日でしたね。最初のリクエストは台東区にお住まいの
    ベロムーチョ武田さんからのリクエストです。」

おおお!!武田、一日に二回とは、なんと幸運な!!

ラジヲ「これは、あっしのボスが大好きな曲です。必ずかけてくださいね。
    …はい、わかりました。(照れたように笑い、ボスに小突かれる)
    それでは、お送りします。帝国歌劇団花組(え?となる花組)
    真宮寺さくらさんが歌います。「さくら」。」

やったぁーー!!と全員で喜び、イントロが流れると同時に全員がさくらさんを「はい!」と歌うようにけしかけます。

さくら「ラ、ラジヲが歌うんですよ!?」

織姫「さくらさんが歌うんですよ!」

ほらほら、と立たされてなされるがままにマイクを持つさくらさん。(ちなみに、掃除人マイク)それを楽しそうに演出するのリクエストを出した本人と、ここの家主。

武田「はい、舞台出まーす!」

親方「電飾つきまーす!
    煙でまーす!」

次々と現れる親方宅の仕掛けに驚く花組ですが、もうすぐさくらの歌が始まるということですぐに楽しげに手拍子をしたり聴く体制に入りました。(^^)

さくら「♪春に咲きます 希望のさくら
     花も嵐も 咲かせます(ボスがさくらさんの真正面、という絶好の位置につれてこられる)
     ひらりはらりと 夢ふくらませ
     あなたとわたし つなぎましょ」

「♪あなたとわたし」で、真っ直ぐに見つめられたボスは、うれしくて固まり、転がり、昇天!(笑)
そりゃ嬉しいですよねぇ〜(^^)
もりあがる親方宅。
上手からひっそりと現れた黒子さんが手にした拍子木を鳴らして、幕が下ります。
まさに、大団円!ですね。

幕がおりきっても、拍手はしばらく続きました。
そして、その長い拍手が途切れたころ、幕がしまったままの舞台に照明が入り…

さくら、紅蘭「いち、に!いち、に!」

もう恒例となった「3分間ショッピング」と書かれたピンクのワゴンをからころ押しながらさくらと紅蘭が登場!
舞台中央で立ち止まると、ショッピングスタートです!

さくら「恒例となりました3分間ショッピングのお時間です!
    今回の商品は…」

紅蘭「ここに取り出だしたるこの代物!
   ここにもある、そこにもあるってもんじゃありません!
   角は白木屋黒木屋の、紅白粉つけたお姐はんからもらえば
   萬はくだらん!ちゅう代物や!!」

さくら「口上長いし嘘多い。」(笑)

嘘多いって、さくらさんが言ってどうするんですか。(^^;;

紅蘭「今回の商品は〜〜これや!!」

が、ノリノリの紅蘭はそんなこと気にせず自慢の商品を高らかに掲げます!
お決まりの「ちゃらららっちゃら〜ん♪」という効果音も決まってますよ〜

さくら「なぁに、それ?」

紅蘭「これが今回の大発明、蒸気式一発和風麺・かんたん君3号〜!
   これは去年発売して大好評やった蒸気式一発中華麺かんたん君を改良したんや〜」

さくら「まぁ〜…けどなんで2号じゃなくて3号なの?」

紅蘭「2号は爆発したんや。」

さくら「爆発するの!?」

紅蘭「これはせえへん!(笑)
   今回も4個セットでステッカーもついて岡持ちパッケージに入れまして…一つ、1000円でどうや!?」

「安い!」「高い!」の掛け声が入り混じり…

さくら「…きわどい!」

苦笑交じりでまとめるさくらさん。(笑)…うん、まぁ確かにそうなんですが(^^;;
ちなみに、初日では一発和風麺ではなくパッチン君2号を宣伝してました。うたい文句や展開は一幕で見せたものとほぼ同じでした。

紅蘭「次の発明や!(ワゴンにあったあるものを掴む)
    浪漫紀行サクラの湯〜!」

さくら「…え?」

紅蘭「簡易温泉や!
    この粉をお湯に入れるとたちまち温泉に早代わりするんや!」

さくら「すごいわね〜!」

紅蘭「(にやりと笑って)今回、パッケージにもこだわってみました。」

さくら「(紅蘭にパッケージを見せられ)あたしと大神さんが…
    は、恥ずかしい…」

うつむいて顔を隠すさくらに、紅蘭はさらににんまりと笑ってます。

紅蘭「赤うなってるさくらはんも、かわええなぁ〜」

さくら「お幾らかしら?」

さくらさん買う気満々!!(大笑)

紅蘭「今回、さくらはんの愛情も入れまして
    大特価、6個で1000円でどうや!!」

さくら「買います、2つ!!」

紅蘭「おおきに!!」

おおお、紅蘭!販促成功ですな!!(笑)
この調子でバンバン売れていくといいですね〜

紅蘭「目指せ完売!みなはん、よろしゅうな。
   ほな、行くで〜!」
紅蘭、さくら「いち、に!いち、に!」

ショッピングタイム終了〜…来た時と同様にワゴンをからころ押しながら下手の方へ。
と、あと数歩で袖という場所で、お約束どおり立ち止まってさくらさんが一言。

さくら「ねぇ紅蘭。(「ん?」と足を止める紅蘭)
    あたしたち慰問に行くでしょう。」

紅蘭「あ、青山の養老院やね。」

さくら「あたし、養老院ってはじめて行くんだけど何人くらい居るのかしらね?」

紅蘭「千人くらいいるらしいで〜」

さくら「千人のお年より…(会場を指して)このくらい。」

紅蘭「うじゃうじゃいるわ〜〜!」(先に下手へと走っていく紅蘭)

さくら「楽しみね〜…あ、休憩は20分です。」

ぺこり、と頭を下げて紅蘭の後を追うさくらさん。
千人…そうか、青山劇場の収容人数は1300ぐらいだったはずだから、たしかにそうかも。(笑)
今回、ここは日替わりではなく、公演通して同じオチでした。

さぁ、休憩時間です。
ところで、私もその「浪漫紀行サクラの湯」は買いました。けど、まだ使ってません。(^^;;
でも、いわゆる入浴剤な仕様なので4年前に発売されたアラビアのバラ入浴剤と違って、香りは外まで漂ってませんでした。(爆)
……アラバラの入浴剤、実はいまだに家に一袋あってまだバラの香りを放ってるんですよ。大掃除の際に発掘したときはびっくりしました!!

さて、余談はこれくらいにして…休憩もあけました。
徐々に会場が暗くなっていくと「♪ぴんぽんぱんぽーん」といわゆる放送のお知らせ音が響き

「青山養老院のみなさ〜〜ん。公演が始まりますよ〜
 講堂へお集まりくださ〜〜い。」

よぼよぼのおじいさんの声が。(笑)
どうやら、ここはもう青山養老院の中という設定のようですね。

老人「て、てす…た、ただいまマイクのテスト中…」

幕が上がると、そこは青山養老院の講堂舞台のようです。舞台の中央には白い三角柱の大きな板柱が立ち、その左側の柱の下には『院老養山青』と書かれています。
上手にあるマイクスタンドの前では震えが止まらないおじいさんが、マイクのテストをしてる真っ最中。(^^;;
その右横には、同じく震えが止まらないおばあさんもいます。こちらは腰が悪いらしく、腰を曲げて杖をついています。

老人「わ、わたくしが……と、当青山養老院
   代表の!二栗柿次郎でございます〜!!!」

「代表の!」あたりからマイクを離れて大声で主張してました。思ってるより元気かもしれません。(笑9
と、半暴走気味のおじいさんを後ろから回り込んで左から肩を叩いてとめるおばあさん。

老女「知ってますよ!みんなお仲間なんですから!」

柿次郎「んぁ?ってことはなんだ…ここにいるじいさんばあさんはわしらと同じ
     青山養老院のじいさんとばあさんだって、そういうあれか?」

老女「そういうあれです。」

はっ私らじいさんばあさんなのか!!( ̄▽ ̄;;
はい、ええ、そういうあれだそうです。(笑)

柿次郎「そういえば、ほら(最前列の方を指差して)
     こっちの人なんか……今夜が山だよ。」

老女「なんてこと言うんですか!」

柿次郎「そういえば、このごろワシもすっかり耄碌してなぁ〜〜」

老女「はいはい!その話は後で聴きますから!」

おお、あしらいになれたものですね。腕を組んで回想モードに入りそうになっていたおじいさんを、おばあさんは真っ直ぐに横に押すと(本当に、きれいに横に滑ったんですよ!思わず客席から「おおー!」と声が出てしまうほど!)マイクの前へと戻します。マイクの前に立たされた柿次郎さんも本題を思い出したのか、まじめに語り始めました。

柿次郎「こ、今回はこちらの(右隣に来たおばあさんを指す)
     赤尾杉 梅子さんの計らいで
     今、帝都でもっとも華やかな…!!いや、大アジアに
     その名を燦然と輝かせる―――!!!」

おおおおおっ!!!お、おばあさんがおじいさんの肩の上に立って燦然と輝く様子をその身を使って表現してます!!
さっすが優作と疾風のサブコンビ!!(爆…ちなみに、おじいさんが優作でおばあさんがサブです。サブは、別名酒屋のにいちゃんとも言います。(笑))
よっとおばあさんが無事に着地すると二人で「ふぃ〜」となんともいえない顔で一休み。(笑)
一息つくと再びマイクの前に戻って口上の続きです。

柿次郎「かの有名な、帝国歌劇団の皆さんをお招きしました!!
     で、では…」

柿次郎、梅子「ど、どうぞ〜!」

と、二人同時に下手の方へ手を向けると、台本を手にしたかえでさんを先頭にマリア、カンナ、紅蘭、アイリス、織姫、レニ、さくらと次々に舞台上に登場します!(この際、マリア、織姫は夏服に、さくらは夏服に白いカーディガンを羽織った装いで一幕とは衣装を変えてきました。

柿次郎「ご、極楽から天女が舞い降りたよぉ〜〜」

梅子「ほら、こっち!こっち!」

思わず見とれていた柿次郎を梅子さんが引っ張って上手へと引かせます。
その様子を苦笑気味に見ていたかえでさんですが、全員が一列に並んだところでこちらへ向き直りご挨拶。

かえで「本日は、お招きくださり、ありがとうございます。
     青山養老院の皆様、お元気ですか〜?(手を振るかえでさんに拍手と歓声で答えます!)
     元気そうで何よりです。(^^)
     では早速、自己紹介させていただきます。マリア。」

マリア「はい。…マリア・タチバナです。
     今日はおじいちゃんおばあちゃんに会うのを楽しみにしてきました。
     どうぞ最後まで、お楽しみください。」

カンナ「青山養老院のじいさんとばあさん〜極楽から舞い降りた天女とはあたいのことだ。
     桐島カンナだ!」

紅蘭「千人以上いてはるおじいちゃん、おばあちゃん!どうぞよろしゅう。
    李紅蘭です〜」

アイリス「アイリスでーす!
      おじいちゃん、おばあちゃんのためにがんばりまーす!」

織姫「おじいちゃん、おばあちゃん!!元気ですかー!!(拍手と歓声で大盛り上がり!)
    上の方のおじいちゃん、おばあちゃんも元気ですかー!?
    そしてなぜか私たちと同じような服を着ているおじいちゃん、おばあちゃん(笑)
    元気ですかーー!!(もちろん、とばかりに大歓声に大拍手!)
    ソレッタ・織姫でーす!」

レニ「レニ・ミルヒシュトラーセです。舌をかむといけないので、レニでいいです。
   よろしくお願いします。」

さくら「あたしも、仙台に皆さんと同じくらい、元気な祖母が居ます。
    手と手のしわを合わせて、しあわせ。
    真宮寺さくらです!」

この挨拶の部分は微妙に毎回違うらしく(マリアやカンナ、レニはほぼ固定)けっこう好き勝手な挨拶もありました。(^^;;
9日・夜ではさくらさんが「皆さんは、お正月にお持ちを食べましたか?あたしは仙台にいる桂おばあちゃんから習ったずんだもちを作りました。真宮寺さくらです!」という感じでした。
ちなみに、10日・昼はこんな感じです。

―――10日・昼

マリアとカンナはいつも通り。ただ、カンナは柿次郎さんが最前列の方に「もう秒読み段階だよ。」と振ったのを受けて、自己紹介の最後に「秒読み段階の方、今しばらく持ちこたえてください。」と付け加えてました。(^^;;

紅蘭「青山のおじいちゃん、おばあちゃん。ウチが発明天国から舞い降りた天女、李紅蘭です〜」

アイリス「アイリスが、メルヘン天国から舞い降りた天女、アイリスだよ〜!」

織姫もあまり変わらず。二階席、一階席、前の方と「元気ですかー!?」と聞いて、最後にカンナ同様秒読み段階の人に向けて「まだ持ちこたえるように」という趣旨の言葉を伝えてました。(爆)

レニ「礼儀知らずばかりですいません;;
   …レニ・ミルヒシュトラーセです。舌を噛む覚悟で、ミルヒシュトラーセと呼んでください!
   (噛まずに、見事にミルヒシュトラーセ!とコール!レニが笑顔を見せて)皆さん、
   いつまでもその冒険する心を忘れないでがんばってください!」

さくら「夢占いです。
    満開の桜を見た人は、お金を浪費してしまうんですって。
    振り込め詐欺には気をつけてください。真宮寺さくらです!」

個人的には、レニの振りがつぼでした。(笑)

―――――

花組全員の挨拶が一通り終わったところでかえでさんが口を開きます。

かえで「そして、アシスタントはこの二人です。」

かえでさんの声をきっかけに、下手から大神さんと親方がひょっこりと登場。こちらも、自己紹介から。

大神「お、大神一郎です!(かんでしまった大神さんに、こける花組一同)
   …ふ、粉骨砕身の覚悟でがんばります!」

初日から噛むとは、さすが大神さん…(^^;;
花組がかくっとこけたりして、なんだかおいしい役どころです。(笑)

―――9日・夜

ここの台詞も毎回微妙に変わるみたいです。

大神「大神一郎です!
   いつもは劇場でモギリをしています!今日は、一生懸命頑張ります!」

親方「慰問て、いいもんですね。
   ……やってしまいました、中嶋です。」

初日の親方は忘れてしまったんですが;;
親方は終始ギャグでしたね。すべる方が多かったみたいですが。(爆)
10日・昼は「青山養老院に、ちょっよよぅろういん。」でした。(笑)

―――――

二人の自己紹介も終わったところで、かえでさんに発言が戻ってきました。

かえで「大神君も、皆さんの前で上がっちゃったみたいですね。
     でも、仕事はきっちりさせていただきます。」

さすがかえでさん、さりげないツッコミですね。(笑)
10日・昼はかえでさんも遊んでました。

かえで「えー、そしてわたしがお酒の国から舞い降りた、ちょっと古い天女です。(笑)
     藤枝かえでです。よろしくお願いします。」

礼、これで一通りの自己紹介が終わりましたね。
ちなみに、普段のかえでさんは「副支配人の〜」という流れです。でも、ちょっと古いって言ってもあんまり古くないと思うんですがねぇ…(^^;;

かえで「では、花組は準備に入らせていただきます。
     みんな、頼んだわよ。」

「はーい」「任せるでーす!」などなど、口々に了解の意を口にして花組の面々は入ってきた時とは逆の順番で下手へと下がっていきます。
その後を追いつつも、かえでさんは舞台中央で立ち止まり、今回の舞台の概略を述べます。

かえで「今回の公演は、蒸気蓄音盤で発売されました「あぁ、無情」を
     いろんな趣向を織り交ぜながら、ダイジェスト版でお送りしたいと思います。
     どうぞ最後まで、お楽しみください。」

改めて礼をして、上手のスタンドマイクの前に移動するかえでさん。
ふと下手側を見ますと、譜面台のようなものと椅子が二つずつ用意されてました。なるほど、朗読劇のテイストを盛り込んでいるんですね。
かえでさんがマイクの前で手にしていた台本をめくると、スポットが当たり物語の始まりです。

かえで「これは、むかーし昔…今から100年ほど前の仏蘭西のお話です。
     パン一切れを盗んだ一人の男が19年間監獄につながれてました。名前は、ジャン・バルジャン
     ジャンは、つらく無慈悲な囚人生活を終えて100フランを持って外に出ましたが
     世間の冷酷な仕打ちを受けます。
     …囚人だったジャンに、宿を与えるものはありませんでした。」

雨音が響く舞台。青白い照明が冷たい雨をあらわしています。
ここで、下手側の二つの椅子にスポットが当たります。座っていたのは親方とマリア。いえ、この場合はミリエル神父とジャン・バルジャンですね。

ジャン「(ドンドン、ドンドンと教会の扉を叩く音)
    助けて…助けてください…!
    一晩の宿を…馬小屋でいいですからっ……」

ミリエル「(きぃぃ…と扉を開ける音)
     おお、これは旅のお方。ずぶ濡れじゃありませんか。
     さぁ、中に入って…新しいシーツと、暖かい毛布を出してあげるからね。」

それから数刻後―――寝静まった教会に雨音が響く。
雨音と重なって、一人の靴音も…

ジャン「……神父は寝たようだな。
    (手に取ったものを見て)ほぉ…これは銀の皿か。
    よし、これを頂こう。長居は無用だ…!」

走り去る音…雨音がいっそう大きく聞こえます。
それも徐々に小さくなっていき、教会が朝を迎えると下手から大神さん(警官)が登場し、ドンドンッドンドンッと扉を叩きます。

警官「神父様!ミリエル神父様!」

ミリエル「(きぃぃ…と扉を開ける音)
      なんだね、こんな朝早くから…」

警官「神父様、町外れでこの男を捕まえました!
    こいつは、神父様の銀の皿を持っていました!」

ミリエル「おお、ジャン!なんだ、銀の皿しか持って行かなかったのか。
      銀の蜀台もあげると言っただろう。今、持ってこよう…」

ジャン「……なぜだ?何故助ける!?」

ミリエル「…弱さや貧しさを、神様は愛される。
      けっして、人を上から見下ろす目を持たないのです。」

暗転。ここで再びかえでさんが口を開きます。(その間に、マリアたちは静かに下手へと下がっていきました。)

かえで「…まぁ、なんていい人なんでしょう!
     このミリエル神父の慈悲の心が、ジャンの心を掴んだのですね。
     そして、10年の歳月が流れました。
     ジャンは、一生懸命働いて、チャンスを掴みます。
     チャンスは、前向きな人に微笑みます。
     皆様も気持ちが後ろ向きな時は、何をやっても駄目ってこと、ご経験ありませんか?
     わたしたちもジャンのように、一生懸命働いて、前向きに生きたいものです。

     さて、ジャンは実業家として大成功し、巴里郊外の小さな町の市長となりました。
     市長ですよ〜すごいですね、ジャンは。頑張ったんですね!
     そんな中、ジャンは運命の人と出会います。
     その人の名前は、ファンティーヌ。

     …ファンティーヌは、ジャンの経営する工場の貧しい女中です。
     ある日彼女は、あらぬ盗みの疑いをかけられ、工場長から解雇を言い渡されます。
     ファンティーヌは娘、コゼットのために夜の街へと、流れていきます…」

再びスポットは下手の二つの席に。今度は大神さんとさくらさんが座ってます。ざわついた効果音ということは、ここは町の一角なのですね。

学生「おぉ〜!今日も夜の女がたくさんいますねぇ〜
    さぁ〜て、巴里大学の落ちこぼれの俺に今夜抱かれるのはだれだぁ〜?」

ファンティーヌ「あの…一晩、抱いてくれませんか?」

学生「ん?なんだ、ずいぶん痩せた女だな。お前は駄目だ!」

ファンティーヌ「お、お願いします!!
         工場を首になって、娘のコゼットへの仕送りが足らないんです!!」

学生「うるさい女だなぁ!!」(腕を振り払う)

ファンティーヌ「きゃあっ!!」

トラブルに発展しつつあった二人の耳を劈くように、警笛が響きます。

ジャベール「法を破る奴は、全員連行!連行ー!!」

暗闇の中(大神さん、さくらさん退場。)ジャベールの声が響くと、舞台中央にあった二本の板柱が真ん中から開き、その後ろにいた紅蘭が姿を見せます!

♪我が名はジャベール

歌は歌で、普通の舞台のようにダンサーさんと歌い踊るのですね。
フルバージョンので歌ってくれました。歌の途中でファンティーヌがつれてこられてしまいます。
間奏部分では、警棒で頬をはたかれ、気絶するファンティーヌの姿があったりと、ジャベールの冷酷無比な法の体現者という姿をありありと出しています。

ジャベール「♪我が名はジャベール 我が名はジャベール
         私こそが法律」

歌の最後ではファンティーヌの手を掴み、自由を奪います。
牢が閉まる音とともに、板柱も元の位置にスライドして、音とともに完全に閉じます。
なるほど、あの板柱は大掛かりな舞台施設のない講堂ゆえの演出だったのですね。

かえで「…このジャベール刑事は、後に生涯をかけてジャンを追いかけることとなります。
     さて、可哀相なファンティーヌはこの法の番人によって牢につながれてしまいます。
     しかし程なくして、ジャンの尽力によって釈放されます。

     パン一つを盗んで19年間も投獄されていたジャンは
     ファンティーヌに同情していたのかもしれません。
     その同情が、愛に変わるまでそれほど時間はかかりませんでした。

     10年間、わき目も振らずに働いていたジャンにとって、それは初めての恋。初恋でした。
     ジャンにとって至福の毎日でした。
     ……けれど、運命は時に過酷なものです。
     ファンティーヌの命が残り少ないことを、ジャンは…医師に通告されます。」


かえでさんのナレーションが終わると、水が波紋を作るような広がりを感じさせる音が流れてきます。
再び板柱が左右にスライドすると、その中にはベッドに横たわるファンティーヌと、その傍らに座り静かにファンテーヌを見つめるジャンがいました。
その背景には大きな十字架。そして、6人の人影が蝋燭を持って佇んでいます。

♪愛しき人よ

こちらは、ドラマCD同様ショートバージョン。
生で聞くと、より一層切なさが増しますね…

ジャン「♪ああ 愛しい人よ ファンティーヌ「♪ああ 愛しい人よ」
      人は誰も幸せになる権利がある」

お互いをいたわるように、ファンティーヌのぬくもりを放さないように、優しく抱き合う二人。
ファンティーヌがそっと目を閉じると、ジャンはゆっくりと、ファンティーヌをベッドに寝かせます。

ジャン「…おやすみ、ファンティーヌ。」

優しくささやき、ベッドの両端に立てられた蝋燭の明かりを消して立ち去るジャン。
ジャンの姿が下手へ消えたとき、ファンティーヌがゆっくりと目を開けます。しかし、その目に映るものは……ない。佇んでいた六人の持つ蝋燭の灯火が一つ一つ消えていきます。

ファンティーヌ「バルジャン…?(はっとなって、上半身を起こし、両手を握る)
         どこなのバルジャン!?
         ……コゼットは、どこ…?
         みんなで幸せになりたい…!ほんの少しでいいの…
         暖かい暖炉の前で、家族が一緒に……
         ―――明かりをつけて…バルジャン…―――――」

最後の蝋燭の灯火が消えたとき。ファンティーヌの体は力なくベッドの上に預けられます。
ファンティーヌを照らしていたスポットも、しぼむ様に、消えました。闇が落ちてきたと同時に、板柱がゆっくりと元の位置に戻ってきます。

かえで「…揺らいでいた、蝋燭の炎が消えるように
     ファンティーヌの命の炎は、消えていきました…

     初恋の失意のジャン。
     ジャベール刑事の追及の手が迫っていることを知ったジャンは
     工場を売り、ありったけのお金を持ってファンティーヌの娘、コゼットに会いに行きます。
     愛するファンティーヌの面影を求めて。そして、ファンティーヌとの約束を守るために。

     ―――ここは、ジャンが一刻も早くコゼットに会いたいと向かった
     巴里からずいぶん離れた、小さな農村です。
     (ぎゃはは、と盛り上がってる声が板柱の裏から聞こえてきます)
     ずいぶんにぎやかですね。どうやら、小さな酒場のようです。」

かえでさんが声を弾ませるようにそういうと、陽気な音楽とともに板柱が開き「かんぱーい!!」とグラスを合わせて宴会の始まりのようです!

♪小金持ちは金持ちだ

こちらもドラマCD同様、短縮バージョン。
村人たちと宴会をする酒場のカンナ演じる亭主と織姫演じる女房。そして、それらの間を忙しそうに潜り抜け、世話をするのは幼き少女。そう、アイリス演じる彼女がコゼットです。

ティナルディエ「♪小金持ちは金持ちだ 大金持ちにゃなれないが
           ちびちび小金を 貯めまくる」

かえで「この二人は、ファンティーヌの親戚で、コゼットを預かっています。」

ティナルディエ夫人「♪小金持ちは金持ちだ 夢は御殿の暮らしです
              ほほほほ ほほほほ あっはははのは」

かえで「しかし業突な二人は養育費をもらいながらコゼットを奴隷のように扱います。」

かえでさんのナレーションで二人の人となりが語られ、まさにその通りの扱いを受けているコゼットが歌の中で表現されます。
でも、落ちたハムを食べてしまうティナルディエ(考えてみれば、劇中に名前が出てこないんですね)はカンナならではだと思います。歌の最後でコゼットが運んでいた重い水を誤って頭からかぶってしまうところも。(^^;;
舞台が暗転し、板柱が元に戻ると、再び物語の語りはかえでさんへとゆだねられます。

かえで「ふふっ…なんだかご陽気な悪人ですね。
     ―――ジャンは、この二人に大金を手渡してコゼットを引き取ります。
     必要なジャベールの追及を逃れ、ジャンはコゼットとともに巴里の教会で隠れ住みます。
     そして、この幼き可憐な少女に惜しみない愛情を注ぎます。

     それから、10年の月日が流れました。コゼットはすでに17歳。巣立ちの季節を迎えていました。
     皆さんのお子さんにも、そういう時がありませんでしたか?
     ちょうど反抗期が終わったころでしょうかね。
     世の中のことなんか、まだ何にもわかってないのにぜーんぶ知ったような顔しちゃって。
     あんたのおしめ、誰がかえてやったと思ってるのよ!…って言いたくなっちゃいますよね。
     でも誰もがそういう時期を、等しく迎えるんでしょうね。

     ―――さて!物語は風雲、急をつげます!(赤い、炎を示すような照明が点り銃声が飛び交う)
     巴里には革命の気運が高まり、仏蘭西王朝が揺らぎます。
     貴族の時代の終わりですね、市民革命です。
     日本で言えばこれは、明冶維新でしょうかね。
     !…そういえば、ここにいる皆さん、明冶維新。ご経験なされてるんですよね!」

お?ナレーションから話題がずれましたよ。BGMとしてかかっていた曲が途切れ、どんどん脱線モードに…(笑)
台本を閉じて、上手側の階段に足を下ろして、最前列の方へと話しかけます。

かえで「あの…失礼ですが、お年を聞いてもよろしいでしょうか?
     …まぁ〜わたし今、心の声が聞こえてしまいましたわ!文政二年!
     ということは82歳ですか!まぁ〜お若い!(笑)
     二度目の結婚は、ぜひ私で。」

この、年は日によって違うみたいで文政三年で83歳、嘉永二年で100歳というのもありました。

かえで「それじゃ、こう、世の中が移り変わっていくのを体験したわけですね。
     民主主義になりましたものね〜女も強くなりました。
     …え?わたし、ですか?
     まぁ、強いといえば強いですよ!でも、弱いところもあったりして―――
     ……あら?なにかしら、この早く続きを始めろという空気…」

いえ、別にそこまで思ってないですよ?(^^;;
ただ、かえでさんが急に語りだすからびっくりしただけです。
でも、かえでさんは咳払いを一つして「失礼しました!物語に戻りましょう!」とマイクの前に改めて立ちました。そして、呼吸を一つ整えて続きを語り始めます。

かえで「この物語は19世紀初頭です。いかにヨーロッパが先進的であったとしても
     まだまだ恋愛が自由であったわけではありません。
     そして、革命の火の中で出会ったコゼットとマリウスは恋に落ちます。
     数奇な運命を辿ったコゼットと
     裕福な家に生まれたにもかかわらず革命に身を投じるマリウスの恋。
     まぁ、なんだか浪漫の香りがぷんぷんしますね。
     …そんな二人の恋、ちょっとのぞいて見ましょう。」

かえでさんが手を額に当てて遠くを眺めるようにしたところで、かえでさんを照らしていたスポットが消えて、板柱が開きます。
そこにはダンサーさんたちが持つ白い傘で隠れたコゼットとレニ演ずるマリウスが。前奏部分が終わると、二人が手をつないで舞台前面に出てきます。

♪恋の出会い

こちらもドラマCDバージョンでした。
いやぁ……改めて見聞きするとなんてかわいい曲なんでしょう。(笑)
でも、いろいろな「あぁ、無情」のダイジェストやキャラクターのあらましを見ていると、あながち「かわいすぎる」わけではない気がするんですよね。

コゼット「♪恋の出会いは」

マリウス「♪いつも突然…」

曲の終わりは、始まりと同様白い傘に隠れるように手を取る二人でした。
消え入る曲とともに板柱が閉まり、暗転すると消えた次の瞬間激しいフラッシュとともに銃声が飛び交い、次いで炎が燃えがある音と赤い光…
それまで、常に上手のマイクの前にいたかえでさんの姿はなく、代わりに下手の椅子に紅蘭とマリアが座っています。

ジャベール「…探したぞ、ジャン・バルジャン。」

ジャン「ジャベール…」

ジャベール「お前は法を犯した。その罪は永遠に消えない。」

ジャン「革命の火は燃え広がった…王政は崩壊する。
    そして新しい法が生まれるだろう。」

ジャベール「法は、法だ!」

ジャン「君には聞こえないのか!
     新しい時代の息吹が、君の錆付いた法が朽ちる音が!!
    法律も、警察も、政府も!…新しい人の手で作り直される。」

ジャベール「法は不変だ!!」

ジャン「この世に不変なものなんでない!
    …移り行くから。変わっていくから、人は悲しい存在なんだ…
    だからこそ、寄り添うんだ。優しさを抱きしめるんだ。」

ジャベール「優しさだと…!?
       私がゴミ溜めで生きていたとき、人々は子供の私に石を投げたんだぞ!!
       私は法を武器にのし上がった!人々に復讐するために!!!
       ………………………
       ―――行け。もう、お前の顔など見たくない。」

ジャン「ジャベール…」

ジャベール「消えろ…!!」

ジャン「………」(黙って、靴音だけがゆっくりと遠ざかる)

ジャベール「…法は不変だ。
       ……私が法だ!…お前の罪を見逃すことは私が自ら…法を犯したことになる―――!」

すっと、何かを覚悟した表情を見せるジャベール。そして、それに続く乾いた発砲音―――

ジャン「ジャベーーール!!」

ジャンの叫び声とともに、暗転。
ゆっくりと、上手のマイクの前に現れるかえでさんが、物語を結末へと導きます。

かえで「―――こうして、ジャンの長い長い逃亡の歴史は終わりました。
     やっと、彼が待ち望んだ安息の日々がやってきました。
     けれども、ジャンは愛するコゼットを、夫マリウスに託し、その姿を消しました。
     そして、二度と現れませんでした。
     その身が、果てるまで―――」

ぱたん、と台本を閉じるかえでさん。
それとともに、静かに板柱が開き…そこに後ろ姿で佇み、空を見上げるジャン・バルジャン

ジャン「♪人生の終わりを知って 思い出す若き日よ」

♪我が心に鳴る鐘

これもほぼドラマCDバージョンでした。(最後の部分のみ、違いますが)
ジャンがゆっくりと歩みながら前方へ進んでくると、舞台の最奥の上手からコゼットが舞台を横切ります。

コゼット「♪いまわかる あなたの想い 思い出すあの頃を」

ジャン「♪君は素敵だった」   コゼット「♪あなたは素晴らしい」

ジャン「♪どうか迷わず好きな道を 思うように生きてほしい」

コゼットは、溶け込むようにゆっくりと下手へ抜けていきました。
一筋の光が指し示す場所へと進むジャン。そこは舞台中央の奥。顔をこちらに向けず、背中で熱唱します。

ジャン「♪鐘が鳴る我が胸に 永久の鐘が
      いまこのときに 人生の意味を知った
      わたしが何故に生まれ 何者であったか
      君の愛に 包まれて」

ここで、ジャンはゆっくりと振り返り…真っ直ぐに、前へ進んできます。ただ一点を見つめ、目を背けることもなく真っ直ぐと。
そのジャンが通り過ぎた後ろに、彼の人生にかかわった人々が現れ、ジャンと同じ方向を見つめます。

かえで「…さぁ、みなさん。何をお感じになりましたか?
     人は皆、人生に無情を持っているものです。
     でも、その事をことさら心に大きく持ってしまうと不幸です。
     それよりも、人との触れ合いや人の役に立っていることを感じた方が幸せですよね。
     ―――きっと、ユーゴー先生もその事をお書きになったんじゃないかと、思います。」

かえでさんの最後の語りが終わると同時に、足を止めるジャン。

ジャン「♪鐘が鳴る我が胸に 永久の鐘が
      愛されること それが人生の意味だ
      ああ鐘が鳴る我が胸に 永久の鐘が
      鮮やかなる 愛の鐘
      愛の鐘」

美しいコーラスと相成って、力強い歌声…最後は、胸が打ち震えました。
見事に歌い上げると、そこにはジャンではなく、マリア・タチバナが立ってました。
後ろに並んでコーラスをしていた花組の面々も、マリアと同じように舞台前面に出てきて一列に並びます。

かえで「これにて、本日の花組公演「あぁ、無情」の全編を終わりとさせていただきます。」

かえでさんのご挨拶とともに、静かに一礼をする花組。
「我が心に鳴る鐘」の最後の部分が流れる中、マリアを先頭に真っ直ぐと舞台最奥に向かい、去っていくその姿に惜しみない拍手を!!
幕が降りきる、その瞬間まで拍手を!!


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